2017年9月30日土曜日

いまどき財政ファイナンスで高インフレに苦しむベネズエラ

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マクロ経済学者の多くは歳入を貨幣発行に頼る財政ファイナンスに対して強い警戒心を持っている。一方で、日本が20年近く安定した物価を維持しているためか、インフレに対する恐怖心が蒸発してしまっている人が多いようで、ネット界隈にはマクロ経済学者の言説を感覚的に理解できない人々が一定数いるようだ。クーデターで政府転覆されるケースすらあるのだが、時折インフレで滅んだ国は無いような言説も見かける。時が経つと失敗への反省は薄れるものらしい。しかし、国外に目を向ければ今も高いインフレーションと経済混乱に苦しむベネズエラがあり、財政ファイナンスの帰結がどのようなものかを知る事ができる。

1. ハイパーインフレーションに至るまで

ベネズエラは世界でもっとも原油確認埋蔵量の多い国で、1950年には世界で4番目に裕福な国であった。欧州や日本に抜かれはするが、原油生産に頼ることで1980年代までは順調に成長を続けている。政府は医療、教育、交通、食料助成金など社会福祉を拡大する。しかし、原油依存度が高い*1のが仇となった。1980年代後半からの原油安で石油公社からの歳入が激減し、歳入を貨幣発行に頼る財政ファイナンスを実行することになり、インフレが誘発される事になる*2(下図参照; 棒が10億ドル単位の原油からの収入、線がインフレ率)。1989年から2001年までは社会福祉の削減を伴う改革が断続的に行なわれたが、経済改革に対する抵抗は大きく頓挫した。特に2005年以降はチャベス政権が社会主義路線へ明確に転換する*3。原油収入が急激に増加していた2012年まではインフレは小康状態になるが、原油価格の下落によって問題が再び露呈することになり、政情が不安定化、2017年にマドゥーロ政権は事実上のクーデターに踏み切る事になる。なお、恒常的に失業率は高いが、ここ数年のインフレ悪化の間にさらに失業率は高くなったようだ*4

2. 成長/厚生における高インフレーションの弊害

高インフレーションは、様々な面で弊害をもたらしている*5。明らかに低いと言うかマイナス成長にまでもなっているのだが、高インフレによって貨幣保有の機会費用が増加すると、

  1. 自己資本を蓄積できず投資を諦める
  2. 実質金利が低下し金融貯蓄が減少して投資量が減少する

効果が出てくるので、経済成長率は低下する。経済成長以外にも、人々の厚生を低下させる面もある。教科書的には

  1. 買いだめによる消費の非効率性が生じる

し、貨幣による貯蓄が不利になると言う事は、

  1. 貨幣以外に有効な貯蓄手段を持たない貧困層の経済厚生を低下

させる。貧困層が銀行口座をもてるようにすると経済厚生が大きく高まることが、開発経済学では広く知られている*6。その銀行口座の貯蓄機能が、実物資産よりも劣るものとなれば、経済厚生は悪化するであろう。さらに、高インフレーションに対して政治的に何もしないと言うことが出来ないのか、高インフレ期に価格統制は良く行われる。ベネズエラの場合では、国内で生産されているはずの財も輸出されるようになってしまい、小売店の商品不足が深刻だ*7。飢餓の発生も囁かれるようになった*8

3. 対策は分かりきっているが、政治的に取りづらい

対処方法は分かっている。何かと意見が一致しない事で知られるマクロ経済学者も、この問題に関しては自信をもって一致意見を言えるはずだ。増税か歳出削減によって、歳入を貨幣発行に頼る財政ファイナンスを辞めればよい。Sargent and Wallace (1981)から始まる一連の経済学の研究は財政赤字が物価水準を大きく決定する事を示しており、実際に同じように高インフレーションに悩まされた南米の国々は増税と歳出削減によってインフレ鎮圧に成功している。なお、太平洋戦争前の日本のように財政赤字を国債で賄う一方で、国債を市中消化してしまえば高インフレーションを先送りにできるわけだが、一度、インフレーションが実現された場合は国債の市中消化は難しくなる。増税か歳出削減のみが対策と言ってよい。しかし、高インフレーションで経済的に困窮しているわけで、増税や歳出削減は国民の反発を受けやすく、政治コストはそう安くは無い。少なくともベネズエラでは、その選択は取れなかった。

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