2014年3月27日木曜日

ちょっと賢い貧困対策を考えるための本

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邦題は『善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学』となっている"MORE THAN GOOD INTENTIONS"は、開発途上国への各種援助を効率的にする方法を、色々な社会実験を元に議論している本。理論よりも実験や経験に拠っていると言う点で、行動経済学を標榜しているようだ。援助政策の実施に直結するような事例の紹介が豊富で、ビジネスマンでも面白く読める内容になっていると思う。パンフレットに美人の写真を載せておくと申込が増えるかなどは、開発援助の現場に限らず疑問に思っている人はいるはずだ。

著者らの師匠が書いた"Poor Economics"と比較すると、途上国の貧困層の生活に関する叙述が減る一方で、援助政策の実施に直結するような事例の紹介が増えており、マイクロファイナンスに関する話題が多い。これはノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏が始めた貧困層向け小口融資なのだが、貧困対策として効果があると信じられている一方で、先進国と比較してとても高い金利を課す場合もあることから、むしろ借金苦から生活悪化につな がるのではないかと言う懸念を抱く人々もいる。本書は各地のマイクロファイナンス機関(MFI)と協力して行った実験結果を参照しつつ、色々な側面から実態を描写しており、賛否の議論を理解するのに役立つと思う。豊富な情報が両極端な議論を自然と戒めてくれる。

パンフレットの美人の写真以外も、考えさせてくれる事例が多く紹介されている。個人的に面白いなと思ったのは、第6章で議論されている社会的規範と返済率に関する実験だ。その中の一つを紹介しよう。マイクロクレジットの借手をAとBの二手に分けて、Aに紙幣を3枚渡して、そのうち何枚か渡すと倍にしてBに渡す(e.g. Aが2枚渡すとBは4枚得る)と申し出る。経済理論などでよく使われるナッシュ均衡では、Aは紙幣を渡さないし、AのおかげでBが利益を得てもBはAにお礼を返さない。しかし、AとBそれぞれ3/4ぐらいはナッシュ均衡ではない動き、つまり相互利益を図る。さらに興味深いことに、Aから渡された紙幣の一部を戻したBの人々は、マイクロクレジットの返済率も高いらしい。ここから社会的規範を育むことで、返済率を高めることが議論されていく。

軽快な語り口の英語が売りで、各章で貧困層の問題を説明する部分では生き生きと貧困層の生活が描写されており、それが理由で単語的に非ネイティブには読むのは大変な部分もあるのだが、豊富なランダム化対称実験(RCT)などを用いたフォーマルな分析の紹介は興味深い。融資だけではなく預金などに関しても金融アクセスが制限されていることの問題などにも触れているし、最後の第12章が有効な援助政策のまとめにもなっているので、意外に辞書的に参照するのにもいいかも知れない。なお英語が難解と言っても口語に慣れている人には何ら問題ないレベルだし、邦訳本の方は気軽に読めると思うので、小細工で業務を効率化するのが好きな人などに広く読んでもらいたいと思った。何はともあれ小細工も、データ分析と組みあわせれば、ここまで昇華する事を知ってもらいたい。

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