2014年12月3日水曜日

金融抑圧(人為的低金利政策)と言う単語だけ紹介しても

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法政大学の小黒一正氏の「増税延期は誤った判断 財政と異次元緩和の背後に潜む“2つの限界”」と言うエッセイで、金融抑圧と言う一般には聞きなれないであろう単語が使われていた。人為的低金利政策と表現するほうが理解しやすいと思うが、(1)資本規制によって金利を低く抑えつつ、(2)インフレ課税を行なう政策の事を指す。

累積債務の規模から考えて人為的低金利政策による債務圧縮も選択肢に入って来てしまうと言うのが小黒氏の指摘であろうが、(a)金融自由化された日本では難しいとは書いてあるが、条件を明示していないと既に今が金融抑圧状態だと誤解をする経済評論家が出てくるだろうし、(b)弊害を書いておかないと、増税ではなく金融抑圧をすべきと言う人々が出てくるであろう。金融抑圧と言う単語だけを紹介しても、と言う感じだ。

1. 金融抑圧の四つの弊害

金融抑圧が実行される条件については小黒氏が整理してくれると思う*1ので、金融抑圧の弊害を四つ紹介してみたい。まずはマッキノンの議論。多かれ少なかれ投資には自己資金が要求されるものだが、インフレによって貨幣保有の機会費用が増加すると、投資を諦める場合が出てくる。次はショウの議論。低金利によって金融貯蓄が減少して投資量が減少し、各種規制によって投資効率が低下する*2。最後にマクロ金融の教科書的な話だが、インフレ課税は消費に関して非効率な面がある*3

2. 買いだめによる非効率

消費の非効率化については、もう少し説明しよう。まずは直観的に、買いだめでの問題を想像して欲しい。タバコ増税前にタバコを買いためた人は、不味くなったタバコを吸っているはずだ*4。製品が劣化しないにしろ、消費増税前の駆け込み需要で実は不要だったものを買った人や、買い貯め過ぎて自宅のスペースが圧迫された人もいたと思う。こういう諸々が、以下の図で示されるミクロ経済学的な消費時点の配分非効率となる。租税であれば、この弊害は無いか、少ない*5

同じ歳出を、租税とインフレ課税(シニョリッジ)で賄うケースで比較している。C1が1時点での消費、C1が2時点での消費だ。Yが所得で、tが税収、zがインフレによる割引率、UAが租税による効用水準でAが1期と2期の消費を表す点、UBがインフレ課税による効用水準でBが1期と2期の消費を表す点になる。租税であれば1期と2期にバランスよく負担させられるので、どちらの期だけに消費をしてもY-tが限度になり、予算制約線がY-t:Y-tとなる。インフレ課税であれば1期はY/zまでしか消費できないのに、2期はYの消費ができるので、予算制約線がY:Y/zと歪む。これにより効用水準が租税よりも悪くなる。上の直観的な説明と同じことなのだが、インフレ課税は消費を前倒しにすることで効用水準を低下させる。

3. 増税か、インフレ課税か、歳出削減か

高齢化に伴い社会保障費が増大しているのだが、租税とインフレ課税のどちらで賄うか、もしくは給付水準を低下させるかの三つの選択肢がある*6。生産年齢人口の低下によって大きな実質経済成長は見込めないし、インフラ整備と異なり高齢者向けの社会保障支出が将来の国民所得を高めることはないから、税収の自然増は見込めない。労働者全員が毎年5.5%づつ仕事の成果物を増やせれば良いのだが、高度成長期でも無いし無理がある。また、三つの選択肢と言っても、インフレ課税に大きく頼るのは問題だ。まだ緩やかなインフレーションであれば良いのだが、二桁近くなってくるとインフレ課税の弊害は大きくなる*7。ゆえに小黒氏は、増税と歳出削減を選択肢に考えているのであろう。

*1金融自由化状態でも中央銀行が国債を買いきれば国債の価格形成機能が失われるので、人為的な低金利政策が可能になるかも知れない。なお、国債入札の札割れが続く現状からは、実質金利がマイナスでも、金利が低すぎるとは言い難い。

*2入門 開発金融―理論と政策」の「4.金融自由化論」(P.16)の節を参照。

*3関連記事:日銀理論が何かは知らないけれども、日銀理論が嫌いな人に薦めたいテキスト

*4森永卓郎のタバコ値上げ防衛策 「一生分買って冷凍保存」は可能か』を参照。

*5消費税率を引き上げる前後では、インフレ課税と同様の問題が生じる。

*6小黒氏のエッセイには「財政再建には3つの手法しかない。増税、歳出削減、経済成長の3つだ」とあるが、経済成長率が自在に引き上げられるわけではないから、手法と言うのは誤解を与える表現であろう。

*7インフレ目標を大きく超える水準になるので、今の日銀は国債買入を抑制するであろうから、制度が大きく変更され明確に金融抑圧が意図されるか、政策金利だけでは制御不能な財政赤字起因のインフレが発生した状況になる。

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