2014年12月24日水曜日

補足:リフレ派が知るべきアジア通貨危機の影響

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前回のエントリー「リフレ派が知るべきアジア通貨危機の影響」についた質疑について考察をしてみたい。(1)製造業従事者数の減少は長期低落傾向の上にあるのではないか、(2)アジア通貨危機ではなく為替レートの影響が大きいのではないか、(3)輸出よりも国内消費の影響の方が大きいのではないか、(4)1997年と2014年は同様の経済状況ではないかの4点になる。

1. 製造業従事者数の減少は長期低落傾向の範疇では?

この指摘に対する答えはYESではあるが、アジア通貨危機の影響が軽微であった事にはならない。たまたま長期低落傾向から外れていたのが1997年後半から補正されたとも言えるが、通貨危機が強力な補正圧力になったとは言えるからだ。製造業従事者数の推移を確認してみると、バブル崩壊と円高の影響が1996年ぐらいに終わって安定したかのように見える(下図)。この2年ぐらいの傾向を転換したのだから、十分に影響はあったはずだ。

2. 為替レートの影響の方が大きいのではないか?

1997年から1998年は円安傾向にあったのでNO。円高が進んでいる時期は輸出が伸び悩み、特にバブル崩壊後は製造業従事者数も減少していた。しかし円高ピークは1995年で、その後は円安につれて輸出も増加しているし(下図)、製造業従事者数も下げ止まっている(上図)。そして、円安ピーク前に、輸出が低迷している。なお、円高ダメージが蓄積していて1998年以降に限界に達した説も見かけたのだが、グラフから雇用調整は常に行なわれている事が分かり、下げ止まっていたと言う事は調整は終わっていたと言える。

3. 輸出よりも国内消費の影響の方が大きいのではないか?

民間企業設備投資が消費よりも輸出に反応しており、輸出額の変化以上に影響を与えたと思われる。

国民経済計算の経済活動別の国内総生産・要素所得を見ると、1996年から1999年の製造業GDPは、112兆円、114兆円、109兆円となっている。輸出額は44兆7313億円、50兆9380億円、50兆6450億円だ。これだけ見ると、輸出減少の影響は軽微に思える。

しかし1996年と同じ約7兆円のペースで輸出が伸びると計算していた場合、僅か3000億円の減少でも過剰設備を抱え込むことになる。雇用水準もそれに沿っていたのであろう。今から見ると楽観的過ぎるように思えるが、消費の上下よりも輸出の上下に反応しているので、アジア通貨危機の方が不意打ちであった事が類推される。

4. 1997年と2014年は同様の経済状況ではないか?

現時点では駆け込み需要の反動は同じような状況だが、広く報道されているように雇用は良い。消費増税と雇用の関係だが、導入を含めて過去三回の雇用者数を見ると、1997年とは異なる事が分かる。実質賃金が下がっていると言うけれども雇用者報酬全体を見ると実質でも上昇している。

雇用者数で見ると1997年は2月にはピークが来ていたので、消費増税でもアジア通貨危機でもなく金融機関の問題が大きかった気もして来るわけだが、ともかく今回は今回で違う動きをしている。

5. アジア通貨危機の影響の大きさ

アジア通貨危機が「起因」と書いたが、輸出金額が一時は半減し、より大きな影響があったリーマン・ショック後の失業率が1年後には改善しだすことを見ると、2002年まで失業率が上がっていく理由にはならない。消費増税よりは影響が大きそうだと言うだけで、構造的な問題は別であろう。

1997年は北海道拓殖銀行、山一証券、日産生命保険などがバブル崩壊の影響から抜けきれずに破綻しており、金融機関の自己資本比率が問題になっていった。貸し渋りや貸し剥がしと言う言葉が流行っていたが、2001年には大手銀行の不良債権比率が8%を超えるような状態になっていたわけで、金融システムが麻痺していた。

つまり、バブル経済の清算が上手く行かずに外的ショックに弱くなっていた所が、本当の問題かも知れない。そして、その問題は現時点では解消している。

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