2018年3月23日金曜日

経済学を使うと人間は綺麗な空気で生活したいと言うのも大仕事

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自明に思えることでも経済学者にかかると未知の領域になりがちで、その傾向は年々と高まっている。他の条件が同じならば、大気汚染を避けて生活したいと言うのも、大気汚染と転出入率を突き合せないと納得されないようだ。それぐらいの突合せならばと思うかも知れないが、雇用機会など他の要素がある上に、人間の活動が大気汚染に影響するので、大気汚染が内生変数になってしまい、なかなか正しい推定が行なえない。

だが、突破口を開く人々はいる。VoxDevで、中国のデータを用いて純転出率と大気汚染の関係を見た研究*1が紹介されていた。二段階最小二乗法(2SLS)と言う計量経済学のテキストに載っているシンプルな分析手法だが、そこで内生性をコントロールするための操作変数の選び方が考え抜かれていた。逆転層の発生率。逆転層は気象学用語で、上空に暖かい空気が入り込むことで、地表面の空気が対流で上空に移動しない現象を指す。地表面に汚染物質がある場合、空気の入れ替えが生じないため、大気汚染の程度が悪化する事になる。

農作物の需要曲線の推定に気温や降雨量などの気象データを使うのは良くある例だが、逆転層が使えるとは思わなかった。2016年にメキシコ・シティの分析で使われたのが最初だそうだ。なお、同時性があっても下方バイアスがかかるだけで、OLSでも推定できてしまえば良い気がすると思うが、実際、推定結果のTable 3を見てみると、OLSでも2SLSでも大気汚染が純転出率を高めており、2SLSの方が倍ぐらい係数が大きくなっている。逆転層の発生率は必要だったかな・・・と言う気もするが、駄目行政により転出と汚染が同時に増えるような可能性*2は排除されたとは言える。

植林や環八雲の影響などで雨が降るようになることもあるので必ずしも操作変数として使えるわけではないかも知れないが、人為的になかなか変化しないものと言えば気象データ。今後は気象予報士からジョブ・チェンジしてくる経済学徒が出てくるかも知れない。

*1A toxic environment: Rapid growth, pollution and migration | VoxDev元ペーパー

*2人口流出気味の地方自治体が、経済活性化のために環境基準を緩めたり、取り締まりを怠ったりするような事が起きるかも知れない。他にも、行政官のやる気が高いと、環境改善と人口流入が正の相関を持つこともあり得る。

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