2017年6月8日木曜日

階層移動のマルコフ連鎖モデル

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

経済学徒向けの演習問題のものだからだと思うが、階層移動をイメージしたマルコフ連鎖モデルの有向グラフが流れてきた*1。演習問題だけに数値は推定されたものではないと思うが、日本のデータだとどのような値になるか興味を持っていた人もいるようだ。貧困や富裕は経済発展や家族構成によっても水準が変わるので、社会階層を定義するのは厄介なのだが、所得階層の数字は『国民生活基礎調査』で取れるので、数字を推定してみた。右上のグラフがその結果である(クリックで拡大する)。

1994年から2014年までの数字を、連立方程式モデルを最尤法で推定した。景気などをしっかり制御せずに推定している*2ので、数字の信頼性は微妙であるが、有向グラフから以下のような傾向が読み取れる。

  1. 家計所得250万円未満の貧困層(poor)のうち44%は一年経っても貧困層のままだが、54%は昇給や結婚によって、中間層になる。2%は、富裕層(rich)に躍進する。
  2. 家計所得250万円以上750万円未満の中間層(middle class)の59%は一年経っても中間層だが、15%が富裕層に出世して、26%が賞与減、定年、離婚などにより貧困層(poor)に転落する。
  3. 家計所得750万円以上の富裕層(rich)の69%は一年経っても富裕層だが、31%が賞与減、定年、離婚などにより中間層に転落する。いきなり貧困層に転落する確率はほぼゼロである。

階層移動が激しいように思えるかも知れないが、境界値付近の人はボーナスか何かの都合で階層移動するので、こんなものであろう。

さて、ここから学部の線形代数 さんすう の時間だ。有効グラフは連立方程式を推定して書いたもので、当然、行列に直すことができる。行列にすれば、固有値と固有ベクトルを求めて対角化をすることにより、来期の階層分布だけではなく、t期先の分布を求めることもできるし、定常状態も求める事ができる。計算機を使うのだから対角化不要と言わないこと。

収束値を見ると貧困層0.23、中間層0.51、富裕層0.26となった。

実は、貧困層が減り、富裕層が増える余地が少しはあるが、2014年の実測値0.27、0.50、0.24とほぼ同じである*3。1994年ぐらいから見ていくと、恐らく不況やデフレや核家族化が原因で、全般として貧困層が増えて、富裕層が減る動きがあるのだが、2014年で大体、日本の階層構造の変化が終わったように思える。

ちゃんと主張をするには経済学にのっとったモデルが欲しい所ではあるが、こういう大雑把な階層移動のマルコフ連鎖モデルからでも、傾向ぐらいは言っても良いであろう。巷で言われる格差拡大については、だいぶ落ち着きつつあるように思える。

*1Finite Markov Chains ? Quantitative Economics

*2家族構成などはコントロールしていない。また、名目所得の上昇を反映して社会階層の基準は動かすべきであるが、名目所得の中位点が緩やかに上昇した後に下落しているので固定とした。なお、貧困層と中間層の推定から、行列の列の要素の和が1になる制約を利用して、富裕層の増減を説明する係数を計算しており、貧困層、中間層、富裕層のそれぞれの推定式の誤差項が同一の誤差分布に従うとして推定している。推定した係数は、5%以下の統計的有意性を確認している。

*3四捨五入をしているので合計値は1になっていない。

0 コメント:

コメントを投稿