2017年6月21日水曜日

家畜やペットの数の割りに獣医師が少ない都道府県

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加計学園系列の岡山理科大学の獣医学部の設置認可に関して、地域の獣医師不足の解決策として正当化されるような話をする人が多々いるのだが、そもそも地域の獣医師が相対的に少ない都道府県はどこなのかが分からないので、官邸が出していた都道府県別の獣医師数及び家畜数の資料を使って確認してみた。愛媛を含む四国が、目立って獣医師数が少ないと言うわけでは無いようだ。高知と徳島はマシな方である。

1. 獣医師数過不足率の計算

都道府県別に必要な獣医師数などと言うデータは無い。そこで、畜産とペットのそれぞれの需要と獣医師数が相関することから、畜産規模とペット数から(獣医師数の予測値)を計算する事にする*1。(獣医師数過不足率)=(獣医師数の観測数)/(獣医師数の予測値)を見れば、家畜やペットの数の割りに獣医師が多いのか少ないのかが分かる。なお、過不足と言っても推定予測値に対する過不足なので、1になればよいというわけでもない。

獣医師(全職種)過不足率
順位 都道府県 獣医師
1位 鳥取 1.917753621
2位 島根 1.723730475
3位 山形 1.520403811
4位 東京 1.47904658
5位 秋田 1.331933875
6位 青森 1.260423401
7位 沖縄 1.257919246
8位 徳島 1.252885152
9位 鹿児島 1.237774872
10位 長崎 1.214604554
11位 神奈川 1.183498454
12位 長野 1.171485902
13位 茨城 1.146642706
14位 富山 1.118352677
15位 奈良 1.113446649
16位 大分 1.095775967
17位 福井 1.086411562
18位 高知 1.077294413
19位 山口 1.049294632
20位 京都 1.044232272
21位 千葉 1.026962595
22位 岡山 1.019015603
23位 和歌山 1.018346398
24位 北海道 1.013197882
25位 栃木 0.998983969
26位 滋賀 0.989614003
27位 石川 0.973035571
28位 岐阜 0.964713233
29位 広島 0.958910531
30位 新潟 0.941227115
31位 熊本 0.930819826
32位 愛媛 0.922923254
33位 静岡 0.913808687
34位 香川 0.911084466
35位 福島 0.908869005
36位 佐賀 0.908002528
37位 宮崎 0.897454171
38位 宮城 0.8695286
39位 埼玉 0.865325553
40位 岩手 0.851835572
41位 山梨 0.839431591
42位 兵庫 0.807233118
43位 群馬 0.806499518
44位 福岡 0.78686904
45位 大阪 0.786472807
46位 三重 0.663765465
47位 愛知 0.640906935

鳥取と島根が多いのが気になるが、四国でも徳島は獣医が多い方であるのが分かるし、宮崎や岩手のような畜産業が盛んな所が不足気味なのが気になる所だ。この二県、獣医学部もあるのだが。

特に不足していると言われている公務員獣医師も見てみよう。

公務員獣医師過不足率
順位 都道府県 公務員
1位 山形 2.336349289
2位 秋田 2.23896746
3位 島根 2.225709983
4位 沖縄 2.194211701
5位 富山 2.042543318
6位 鳥取 1.979564096
7位 長崎 1.90722597
8位 高知 1.821239756
9位 青森 1.571734751
10位 徳島 1.570795351
11位 和歌山 1.556263245
12位 大分 1.52861768
13位 奈良 1.495328326
14位 長野 1.461564491
15位 福井 1.391813239
16位 山口 1.351491295
17位 新潟 1.330425981
18位 岐阜 1.323269196
19位 宮城 1.31843162
20位 石川 1.306240864
21位 岡山 1.289947938
22位 愛媛 1.271227779
23位 佐賀 1.267682392
24位 広島 1.24101129
25位 山梨 1.209928363
26位 栃木 1.174321026
27位 香川 1.149711508
28位 熊本 1.140959189
29位 兵庫 1.136328563
30位 千葉 1.135295599
31位 鹿児島 1.122412642
32位 京都 1.09478176
33位 群馬 1.088978104
34位 神奈川 1.071618099
35位 福岡 1.07037828
36位 福島 1.056262674
37位 三重 1.051984722
38位 茨城 0.999076132
39位 静岡 0.998974352
40位 北海道 0.986480762
41位 東京 0.938989749
42位 滋賀 0.919200416
43位 宮崎 0.891379608
44位 埼玉 0.815372127
45位 大阪 0.753947917
46位 愛知 0.743575257
47位 岩手 0.60714124

順位にかなり変動があり、東京の下落が目立つ。四国は全体として、上位に移動した。また、高知と徳島は、公務員獣医師の確保は出来ている方だ。

2. 獣医学部の効果

今回つかった推定式に獣医学部の定員数を加えて推定をすると、獣医師(全職種)過不足率を改善する効果を確認できるのだが、公務員獣医師過不足率の改善は見られない。切片項を加えれば、公務員獣医師過不足率の改善も見られるようになるが、獣医師(全職種)過不足率の改善効果よりも係数は10分の1以下である。公務員獣医師の比率を考慮しても、3割程度となる。公務員の中でも家畜衛生に絞ると、切片項をつけても獣医学部の定員数の有意性はなくなる。なお、非公務員の産業動物診療は、切片項の有無に関わらず定員数の有意性は無かった。

3. まとめ

獣医師不足の不足地域をみると、四国よりも不足気味な地域はかなりある。特に、畜産業が盛んな宮崎や岩手がこれで良いのかは不安だ。岩手県前知事は、獣医師の確保に苦労したと言っているが、確かに他県並みにはなっていない。獣医師不足に獣医学部設置が効くとしても、四国に獣医学部が無いこと自体は問題に出来ないであろう。ただし、公務員獣医師の改善効果はそんなに高くない。

*1畜産規模としては乳用牛とブロイラーの飼養頭数と、ペットの数としては犬の登録数を用いた。獣医師数 = β1・乳用牛+β2・ブロイラー+β3・犬飼育数+ε。自由度調整済決定係数は0.9416で、説明変数の有意性はP値で1%未満、10%未満、1%未満である。肉用牛、豚、採卵鶏の飼養頭数は多重共線性を避けるために利用していない。また、飼育動物がいないのに獣医がいるのもモデル上は妙なので、切片項はゼロとして推定する。なお、切片項の制約を除いても、ランキングが大きく変わるというわけではない。

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