2017年6月11日日曜日

獣医師の過不足を考えるための数字

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加計学園系列の岡山理科大学の獣医学部を設置認可に関して、獣医師の養成数を抑制するために新設を認めてこなかった*1文科省の方針がおかしいと言う主張を見かける。寡占市場で過少供給になっているので、獣医養成数を増やせと言う論法だ。特に、公務員獣医師、産業獣医師が不足していると言う主張がある。実際、2012年に全国知事会は、獣医養成数の増加を要請している*2。これを無批判に踏襲している人が多いのだが、実際の数字はどうであろうか。

1. 獣医師偏在説と需要減予測

これに対して、獣医師は偏在しているだけで数自体は足りており、畜産の飼養頭数や犬猫飼育数の減少により、長期的にも需要減少が予測されると言う反論もある*3。公務員獣医師、産業獣医師の待遇を引き上げれば、地方自治体の問題は解決すると言う議論だ。

農林水産省の「獣医事をめぐる情勢」では、近年、犬猫飼育頭数が減少に転じたこと、ペット相手の小動物専門医の成り手が減少していること、さらに獣医として仕事をしていない獣医師が1割以上いることを指摘している。2007年5月の「獣医師の需給に関する検討会報告書」では不足が言われていたのだが、その後、犬猫飼育頭数が増加から横ばいもしくは微減に転じたので、予測が変わったようだ。需要と供給は価格で調整されるので、獣医師の賃金が高すぎて困っていると思うかも知れないが、平均年齢40歳弱で平均年収は600万円強ぐらいが相場のようだ*4。開業獣医でないとそうは稼げない。

2. 獣医師の低業務効率説

獣医師への仕事の割り振りがおかしいだけで、獣医師の数自体は十分だと言う議論もある。私立獣医科大学協会の政岡氏は2013年に「我が国における獣医師の需給見通し等について(意見)」で、欧米比較で日本の獣医師の数は多い事を指摘している。公務員獣医師、産業獣医師だけで見ても、人口比、飼育頭数比でみて、日本は多い。2007年5月の報告書でも、無資格の動物看護士を拡充すれば、獣医師の業務効率が図れることを指摘している。日本では専門家に雑用をさせる癖があるので、そういう所が効率悪化を招いているかも知れない。

3. 養成数抑制継続には概ね合意

市場ではなく政府が獣医や獣医養成学校の数を定めるのがおかしいと言う議論もありうるはずだが、獣医学部の設立を無条件に許さない「大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の設置等に係る認可の基準第一条第四号の規定」を削除しろと言う主張はほとんど見かけない*5し、大学には各種の公的補助が与えられるので供給過剰になりがち*6。石破4条件として知られる閣議決定「日本再興戦略改訂2015」でも「近年の獣医師需要動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う」とあるので、獣医の過不足どう判断するかは重要なポイントであろう。

厳密には、医師の養成数をパラメーターにとる社会厚生関数を推定して厚生評価を行なう必要があるので、これで論争に決着がつくわけではないが、加計学園問題で安倍総理を擁護する人々が見落としている数字は色々とあるように思える。

*1こんな露骨なことを政府が言っているのかと思うかも知れないが、「第27回 国家戦略特別区域諮問会議 配布資料」の「資料1-2 主な認定対象事業」に「獣医師の養成数を抑制するため、昭和41年の北里大学以来、新設は認められていない」と書いてある。

*2平成25年度国の施策並びに予算に関する提案・要望(案」に「産業動物診療、家畜衛生及び公衆衛生に携わる質の高い獣医師を確保するため、国立大学法人の定員増加や、獣医系大学のカリキュラム充実を図ること」とある。

*3獣医の数は「飽和気味」 獣医学部新設の根拠あいまい:朝日新聞デジタル

*4ネットで検索する限りは、このぐらいの水準となっているだけなので、実態はもっと高い可能性はある。

*5経済評論家の獣医師免許制を廃止しろと言う極論はあった。感染症への不適切な対処は外部不経済をもたらすし、人畜共通病や情報の非対称性による食の安全の問題から公衆衛生にも関わるのだが、そこまで思慮が回らなかったようだ。

*6獣医学部の入試倍率は高いので、一歩間違えると職業人養成ではなくて、教養としての獣医師養成に励む事になる。

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