2014年8月6日水曜日

不正の糾弾よりは、片っ端から再現実験をするのが世界の流れ

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下村文科相の意向と理研の対応はともかく、研究自体が虚構であった可能性を前提に、不正追求を徹底すべきと言う論調になってきたSTAP幹細胞事件*1だが、個別の事件で大騒ぎするのは、米国と比較すると何歩も遅れている。生命科学が特にそうらしいのだが、無数の不正があるわけで、片っ端から検証していき、さらには再現実験を行う動きが出てきているからだ。

小保方事件の前にも後にも、捏造事件は多々ある。広く報道されたもので、東京大分子細胞生物学研究所・加藤茂明元教授、東京大学附属病院の特任研究員・森口尚史氏、東邦大学医学部・藤井善隆准教授、東北大大学院歯学研究科・上原亜希子助教、筑波大学・村山明子講師が思い浮かぶ。日本がひどいように思えるが、世界的にも少なく無い*2。これだけ不正が横行するのは、発覚しても罰則がせいぜい学術分野から追放されるだけ*3なのに対して、発覚する確率が低いからであろう。

しかし、The Economist誌によると、片っ端から検証していき、さらには再現実験を行う動きが出てきている。スタンフォード大学ではMeta-Research Innovation Centerを設立して生物医学分野でのメタ・アナリシスを行い、研究者に不正行為を思いとどまらせ、信頼性に足る科学的知見を世間に公表していくそうだ。バージニア大学のオープンサイエンス・センター(Centre for Open Science)がサポートするMany Labs Replication Projectは、13の著名な説の追試を行い、そのうち10に信頼性がある事を確認した。同センターでは腫瘍学の半分の研究の追試を行う予定だそうだ。Journal of Irreproducible Results(再現性の無い結果誌)も創刊された。

課題もある。再現性はとても重要なのだが、他人の研究を信頼性を検証しても、そうは評価されない。再現性がないことを示してしまったら、狭い業界の人間関係が悪くなるマイナス面も大きい。そもそも公表する場さえ、ほとんどない*4。人生設計と言う面で見ると、個々の研究者には追試を熱心にする理由*5も、再現性の無さを公表する理由も無い。再現性が大事と言うのは万人に理解されている一方で、それを追求する気はほとんどの科学者に無いというのが、現状では無いであろうか。

この問題は解決が不可能と言うわけではない。日本で言えば、再現実験をしているラボに科研費をつける、国立大学の採用時に再現実験をした経験を評価するなどの政策で、大きく状況が変わるであろう。日本人研究者の論文製造ペースが低下するのは間違いないが、信頼性にたる科学の追求の方が、ずっと大事なように思える。それに画期的な研究は再現性があるのだから、本当の天才が困ったりする事は無い*6であろう。

*1日本学術会議幹事会が、「この問題は一部の図版の不正な置き換えに止まらず、研究全体が虚構であったのではないかという疑念を禁じ得ない」と声明を出している。

追記(2014/08/07 16:34):STAP幹細胞事件に関して追試がされていないと主張しているように誤解したコメントがついているが、もっと一般的な不正対策の話のつもりで書いた。STAP幹細胞事件は科学的には収束している(関連記事:遺伝子解析結果:STAP幹細胞は最初からありません!)。

*2捏造による論文取り下げ率 - バイオ系研究室PC管理担当のメモ」を参照。

*3テニュアが得られるまでに研究成果があげられない研究者は、どの道、学術分野から去ることになる。

*4関連記事:P値が有意になるように頑張りすぎちゃっていませんか?

*5もちろん自分の問題関心に近ければ、追試を行う理由は十分にある。

*6再現性が得られないことが、即不正だと認識されるような風潮が出来ないことが前提となる。後から実験手順が精緻化され、再現性が得られるようになる事があるからだ。ビタミンEの発見時に、それが紫外線で壊れることが知られていなかったので、当初、再現性が得られなかったという逸話がある(関連記事:研究とは何か感じられる「栄養学を拓いた巨人たち」 )。

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