在日朝鮮人のフリーライターの李信恵氏が、ヘイトスピーチで名誉を傷つけられたなどとして、在特会の桜井会長やブログ『保守速報』に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたそうだ(朝日新聞)。『弁護団によるとヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)をめぐり、個人が損害賠償請求するのは初めて』らしいのだが、あくまで個人に対する侮辱や名誉毀損に対する訴訟なのではないであろうか。根拠になる法律が良くわからないのだが、メディアはそれを確認する気が無いようだ。
日本には侮辱罪も名誉毀損罪もある。だから、インターネット上で誰かをバカと言うのはリスクのある行為だ。ブスと言うのも問題で、今回の訴訟に含まれるかは分からないが、李氏に対するこのような発言があったのは記憶にある。また、真偽関わらずプライベートに関わる不名誉なことを吹聴すると、犯罪になる。逆に、ヘイトスピーチを批判する人が、根拠を示さず誰かをレイシストと言って回るのも問題行為となる*1。刑事の方は警察や検察は運用に熱心ではなく、民事の方は訴訟費用がかかるので、侮辱も名誉毀損も野放しになっている面があるのだが、実は日本国での発言は注意深く行う必要がある。
今回の訴訟、ヘイトスピーチと言っているのだが、何を根拠法としているのであろうか。具体的な発言が挙げられていないのだが、過去の判例を見るに、「差別的憎悪表現」を理由にする限りは厳しいように思える。
- 在日朝鮮人と言う属性に対する論評が、個人に対する名誉毀損罪にあたると判断される可能性は低い。2001年の石原慎太郎都知事(当時)のババア発言では、「原告ら個々人の名誉が毀損されたかということになると疑問」と退けられた。
- 発言が人種差別的であると言うだけで、損害賠償が生じうる可能性は低い。先日の京都朝鮮学校公園占用抗議事件の控訴審では、人種差別撤廃条約は「私人相互の関係を直接規律するものではなく,私人相互の関係に適用又は類推適用されるものでもない」と判断された*2。
- ヘイトスピーチの立法化の話が出てきているところで、既存の法律で取り締まれるようには思えない。国連人権規約委員会の勧告が出たり、舛添都知事が首相に法規制を求めたりしたのは、つい最近だ。
公衆には在日朝鮮人と言う属性へのヘイトスピーチをめぐりと言いつつ、訴状では個人への名誉毀損を理由に訴えているのでは無いであろうか。そして、訴訟に勝ったら主判決に関係の無い部分を引用し、ヘイトスピーチの違法性が確認されたと主張するつもりなのでは無いであろうか。
訴訟は李信恵氏の権利なのでそれ自体は特に言及することはないのだが、公言されている部分に疑問が無くも無い。訴状が公開されれば良いのだが、もう少し詳しい主張を出して欲しいように思う。本当は、ヘイトスピーチとは関係の無い訴訟なのでは無いであろうか?
*1私は金明秀氏にたまにレイシストと罵られているが、氏の行為は匿名アカウントで実名の誰かと紐付けされていないので、法律には抵触しない。
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