2014年5月7日水曜日

失業率低下と名目賃金上昇を前にした池田信夫

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経済評論家の池田信夫氏が「人手不足が示すアベノミクスの終わり」で、「日銀は有害無益な量的緩和をやめる出口戦略を示すべきだ」と主張している。黒田日銀を批判したいのは分かるのだが、文全体に混乱が見られる。“有害無益な”とあるののに、何に有害で、何に無益なのかが明示されていない。

「円安とエネルギー価格の上昇で輸入インフレになり、実質賃金が下がった」事が問題なのであろうか。現象としては円相場が購買力平価(PPP)為替レートの前後で推移しているのは確かだ。しかし、池田信夫氏は黒田日銀が原因とは主張できないように思える。

1. 量的緩和で円安にならないなら、有害とは言えない

以前、池田信夫氏は『「日銀の量的緩和が足りないから円高になった」という話だが、何度も書いたようにこれは明白な嘘』と主張していた。池田信夫氏の議論では円安の原因は日銀ではなく、エネルギー価格の上昇も日銀のせいでは無かったはずだ。すると実質賃金の低下は日銀の量的緩和が理由ではない。

2. 実質賃金が低下し、失業率が改善したなら無益とは言えない

「人手不足の原因は彼(=黒田総裁)の信じているように内需が強いからではなく、以上のような労働需給のミスマッチと輸入インフレだ」とあるのだが、輸入インフレで実質賃金が低下して人手不足になる事は問題なのであろうか。池田氏は「日本の人件費は、まだ世界的に見ると高い」と主張しているわけで、実質賃金の低下は歓迎すべき立場だ。また、「労働需給のミスマッチ」で人手不足が発生しているのは望ましい事ではないが、それでは失業率が低下した事を説明できない。

3. 平均賃金や雇用の質は改善していないのであろうか?

池田氏は「経済全体で見るとまだ需要不足だから、平均賃金は上がらない」と主張しているが、実質賃金は物価と名目賃金の影響を受ける。インフレ分を除いた名目賃金は実際は上昇している。「毎月勤労統計調査」で2014年3月と2013年3月を比較してみると、名目値(現金給与総額)は約0.72%ほど上昇している。日本全体の賃金報酬になる常用労働者×現金給与総額は約1.8%増となっている。また「雇用の中身も、正社員が減って非正社員が38%を超えた」とあるが、同資料を見てみると、常用労働者のうち一般が38万人、パートが10万人増加しており、池田氏の主張は事実と反する。

4. 「デフレ脱却」の目的は店の利益の増加?

池田信夫氏はマルクス経済学がベースなので、雇用主の利益が増えて労働者が困ると言いたいのであろうか。「外食産業でも値上げが相次いでいる・・・時給が同じで価格が上がると、店の利益が増える」と主張している。「正社員が余っているのに対して、パートは人手不足」「接客・給仕は2.64倍、建築・土木は3.97倍と大幅な人手不足」とあるのに、「時給が同じ」と言う事はあるのであろうか。実際、報道ではこれらの産業で人手不足を背景とした、賃金上昇が伝えられている*1

5. 物価が下がってスタグフレーションになるのか?

「直近の物価を示す東大物価指数もマイナスだ。景気の悪化する中で物価だけが上がるスタグフレーションの兆しが見えている」とあるのだが、物価が下がっているのに、物価が上昇する兆しが見えると主張するのはいかがなものであろうか。「デフレは国際競争の結果なので、結果を変えて原因を変えることはできない」ともあるので、そもそもインフレに転換する事が無理だと主張されている気がする。

そう言えば御執心だった「デフレの原因は名目賃金の低下」はどこに行ったのであろうか?

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