2014年4月15日火曜日

邦題がおかしい「世界は貧困を食いものにしている」

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原題は「あるマイクロファイナンスの異端者の告白 ─ どのようにマイクロ融資が道を誤り貧困者を裏切ったのか」の「世界は貧困を食いものにしている」を拝読したのだが、ヒステリックに貧困層向け小口融資であるマイクロファイナンスを否定している本と言う当初の予想に反して、自伝的にマイクロファイナンス業界の問題点を内部告発している本であった。経済分析のところで気になる点はあるのだが、マイクロファイナンス機関(MFI)やMFIファンドの実態は興味深いし、アフリカのような途上国で事業を行うときの体験談の部分も貴重だ。邦題が空回りしているのが残念だが、開発援助に興味がある人は一読してみる価値はあると思う。

1. 経営陣が私的便益を追求するから規制すべきと言う主張

著者の体験談によると、少なく無いMFIが経営的に混乱しておりまともにデータベースも構築できず自身の状態も把握していない一方で、MFIの上層部が不当に高い報酬を受け取り、MFIの支出を私的便益の追求に使っているそうだ。MFIは無駄の多い経営をしているが、違法に預金を強制するなどして実質100%を超えるような高金利で利益を確保しているので、MFIを監視するべき出資者であるMFIファンドは、格付け機関がMFIの経営状態を警告していても、それを気にしていない。マイクロ融資が投資に使われる事は少なく、超高金利が貧困層の生活を改善するわけではないから、ローン利用者は最期は行き詰る。ニカラグアでは暴動を引き起こし*1、インドでは自殺を誘発している。MFIファンドの出資者やキーヴァなどのP2P出資の利用者は、透明性の欠如からこのような問題を把握しておらず、MFIやMFIファンドの横暴に加担してしまっている。このような実態から、著者は実質的に野放しになっているMFI機関をしっかり規制すべきだと主張する。モンゴルではMFIが上手く投資資金を提供し機能しているわけで、アフリカや南米でも改善の余地はあると言うのが、著者の結論だ。

2. 貧困層の生活を悪化させていると言う部分は説得的ではない

具体性に溢れるマイクロファイナンス業界の描写は興味深く、その最終的な結論も同意できるのだが、MFIが貧困層の生活を悪化させていると言う主張は説得的ではない。まず、著者が指摘していることだが、全てのMFIが高金利と言うわけではなく、著者が働いていた高金利のMFIは顧客の定着に失敗しているからだ。文字が読めないことにつけ込んで不利な契約を押し付けたとしても、一回利用すれば契約内容を理解できるので、ずっと騙されているわけではない。次に、著者はマイクロ融資が投資に使われ所得増をもたらす事が少ないと批判するが、消費財を買ったとしても他のもっと高金利な借入よりマシであろう。実際に計量的な分析では、生活改善効果は研究ごとにまちまちで不明瞭ではあるが、生活が悪化するような報告はほとんど無いはずだ(関連記事:マイクロファイナンスで借金苦には陥らない)。

3. 開発援助に妖しげで強欲な人が群がる様子が分かる貴重な本

ただし本書の全体からすると、高金利のMFIが顧客を困窮に追いやっていると言うやや短絡的な主張は瑣末な欠点にしか過ぎない。全体として貧困層がMFIを役立てているといっても、グラミン銀行のように約款を暗記するまで融資しないような事を義務付けるなど、騙される人を減らすような規制強化が悪いわけではない。混沌としたマイクロファイナンス業界の実態を描写する本がそう多いわけではないし、本書のように著者の膨大な記録が残されているものは数が限られる。学術書などでは曖昧な表記で良く分からない開発援助に妖しげで強欲な人が群がる様子が分かる本として、途上国で業務を遂行するときの治安や従業員の能力に関する苦労が書かれた本として、興味深い資料になっていると思う。最後に貯蓄の重要性などにも触れられており、最近の開発援助の文脈*2とも整合的になっている。

*1暴動でMFIは打撃を受けたが、失われたのは出身者のお金で、MFI経営陣のものでは無いそうだ。

*2マイクロ融資に経済効果が無いと言うのは言いすぎだと思うが、「貸し付けに経済効果なく、岐路に立つマイクロファイナンス ─ 改革のかぎは効果が高い貯蓄事業の拡大」では貯蓄の重要性を強調している。

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