2013年6月8日土曜日

何かがおかしい合理的期待形成

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インフレ予測の文脈で、合理的期待形成を説明している経済評論家を見かけたのだが、何かがおかしい。合理的期待形成の定常状態に不完全競争などの影響が入らないように読めるし、行動ファイナンスは適応的期待形成に分類されている。また、消費を調整する事になっているのだが、消費だけとは限らない*1

合理的期待形成は経済学における標準的な仮定であり、その経済にいる全ての経済主体は現在と未来を合理的に予測して、効用を最大化するように振舞う。経済主体が無限に生きるのであれば定常状態まで、寿命がある場合は寿命まで、各期の状態を計算して行動を決定する*2。不完全競争市場などを導入しても、未来予測は合理的に行われるために*3、合理的期待形成モデルは維持できる。

非標準的な仮定を置く場合もある。一昔前のCagan ModelやLucas Islands Modelのようなインフレーションに関する議論では、適応的期待を仮定している*4。計量分析も、通常は未来に発生する事象が現在に影響するとは考えないので、適応的期待と言えるかも知れない*5。行動ファイナンス分野では、代表性バイアス、保守性バイアス、損失回避バイアス、トレンド追随行動、自信過剰などが期待形成、もしくは意思決定に影響を及ぼすと考える*6

見かけたエントリーの本題とは異なるし、説明もあっているような間違っているような曖昧な感じなので具体的な言及は避けるが、議論する前には文章での説明だけではなく、数理モデルにおける位置づけも良く確認した方が良い様に思えた。そのエントリーではrational expectationが仮定される事は減ったと主張した上で、Eggertsson and Woodford(2003)が引用されているのだが、この論文では"rational expectations equilibrium"であると明記されている。

*1Ramsey Modelのようなベーシックなシンプルなモデルだと、消費だけを調整している(関連記事:動学マクロ経済学と言う名の非線形連立方程式を解いてみる)。

*2教科書的なRBCやDSGEは無限を生きる家計の、OLGは有限期間を生きる個人のモデルと考えることが出来ると思われるが、どちらも動学マクロ経済学のモデルである(関連記事:現代マクロ経済学の基本モデルを知る世代重複モデルで見る少子高齢化と利子率)。

*3不都合な未来を合理的に予想するわけだ。

*4Lucas Islands Modelは合理的期待形成を行うわけだが、結局は過去の履歴からシグナルを引き出し、それでインフレ発生理由を推測する。

*5フォワード・ルッキング・モデルによるわが国金融政策の分析

*6行動ファイナンス理論と株式市場分析

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