2013年6月15日土曜日

「均衡」と「定常状態」で経済評論家に騙されないための知識

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均衡も定常状態も定義された単語なのだが、ネット界隈ではあやふやに使われる事が多い。特に動学マクロ経済学の話になると、混沌としてくる。

昨日も動学マクロ経済学では・・・と言いつつ、定常状態=均衡と言っている経済評論家を見かけた。定常状態=均衡では無いし、例え失業者がいても理論上は不均衡だと見なさないのだが、そういう事が分かっていないらしい。

1. 位相図を見ながら均衡と定常状態を理解する

具体例として、最も基本的な資本だけで世界の状態が決まるラムゼー・モデルの位相図を見てみよう*1。Cが消費、Kが資本、ΔCとΔKがそれぞれの次の期の増減になる。ΔC=ΔK=0が定常状態だ。このモデルでは(横軸の)資本が決まっており、それによって生産量が定まる。それを消費と投資に振り分ける。この配分は、自然と決定される。

均衡状態よりも(縦軸の)消費が多く投資が少ないと、来期以降の資本が不足するので、投資の価値が増す(消費過剰)。消費が少なく投資が多いと、来期以降の資本が余るので、消費の価値が増す(投資過剰)。

消費と投資の価値が同一になるのは均衡点なので、自由放任状態で均衡が達成される。もちろん需給は一致している。不均衡など発生しない*2。複数の均衡があるモデルでも、どこかは安定的な均衡になっている。“需給ギャップ”など発生しない。

注意したいのは失業や遊休設備があったとしても、均衡状態だと言う事だ。賃金が安すぎるので働かない、赤字操業なので動かさないと解釈される*3。場合によっては低水準均衡と言う事になるが、それでも均衡の一つではあり、需給はクリアされている。

資本量ごとにある均衡点の集合(→→→●←←←)は鞍点経路と呼ばれる。そして鞍点経路にあると、定常状態に収束していく。ラムゼー・モデルでは資本量が収束していくわけだ。定常状態は均衡の一つだが、均衡だからと言って定常状態ではないのは、もう理解できたと思う。

2. 動学マクロ経済学と言い出したら、それに沿った議論を

現実的ではない? ─ そうかも知れない*4。あくまで一般的な動学マクロ経済学のモデルの中の均衡と定常状態の位置づけであって、それが現実を良く表しているかは別問題だ。しかし、動学マクロ経済学では・・・と言いつつ、需給ギャップや不均衡があるかのような議論をしだすのは問題が多い。

理論モデルが正しいと言う話ではなくて、それを使うように見せつつ、その体系から外れた議論を唐突に展開しだすのが問題だ。山ほどテキストや解説ページはあるのだから、ハッタリを書くのではなくて、コツコツ勉強すればいいのに。

*1詳しい解説は「マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)」などを参照。プロット方法などは「動学マクロ経済学と言う名の非線形連立方程式を解いてみる」を参照。

*2効率賃金仮説などを置くと、実は不均衡なモデルも作る事ができるが、ほとんど見かけないと思っていい。

*3数理モデルの構成上の都合もあるので、この解釈が正しく実態経済を表していると言い切れるわけではない。

*4情報の非対称性や取引摩擦、失業や価格硬直性、企業や家計の異質性など等の要素が追加されたモデルもあるが、均衡や定常状態の扱いが大きく変わることは無い。

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