2013年6月25日火曜日

疑似科学を統計学的に否定すべき理由

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擬似科学ニュースが「統計的有意性がないという理由で、疑似科学を否定するのは間違っている」と主張している。

主張されるモデルの説得力が重要だと言いたいようだが、統計的有意性が重視されるのが現代科学なので、この主張に納得する科学者は少ないと思われる。

基本的な科学的事実の認定方法を確認して、疑似科学に騙されない心構えを鍛えよう。

1. 理屈ではなく事象を重視するのが科学

メカニズムが説明されていないけれども、現象が確認されている事は少なくなく、理論モデルで説明できる事象だけを科学とすると、疑似科学でないものまで排除されてしまう。薬は生理作用が不明な事も多い。19世紀末に商品化されたアスピリンは70年間も生理作用が不明だったが、効果は認定されていた。インフルエンザ・ウイルスの体内での活動はまだ研究されているが、病原としては認定されている。重力も理屈は未確定*1だが存在を疑う人はいない。

2. 先に存在確認され、後で理屈のついた事象は多い

先日も、 銀の抗菌作用のメカニズムが解明され、細菌の細胞の透過性を高め、活性酸素の過剰生産を誘発することで新陳代謝を阻害することが分かったと言うニュースが流れていた(Nature News & Comment)。紀元前400年から知られている現象だが、理論的には2000年以上は謎だったわけだ。しかし、資生堂の消臭スプレーを疑似科学と非難する人はいなかったはずだ。

3. 事象を説明できないモデルは捨てられる

逆にモデルがあっても、事象を良く説明でき無ければ意味が無い。

中世に信じられていたアリストテレスの教えは疑似科学の古典であろう。ガリレオは滑り台*2の実験で、アリストテレスの“理論”が主張した「重さに比例した速さで落下」を棄却する事に成功した。同じ大きさの重いボールが、軽いボールとほぼ同じ速度で滑り落ちることを示し、落下速度が重さには比例していない事を示し、アリストテレスを否定した*3。この実験は、慣性の法則に発展する。

4. 実証データが不足すると、モデルが乱立

実証データが不足すると、モデルが乱立することもある。

16世紀にコペルニクスの地動説が、2世紀のプトレマイオスの天動説に対して優位に立てなかったのは、1年の長さはより正確に測れても、惑星位置の予測で劣っていたから*4。ケプラーが楕円軌道をとり込むことで精度が増して優勢になり、18世紀にブラッドリーが光行差を発見して支配的になった。

紀元前3世紀にはアリスタルコスが地動説を唱えていたらしいので、データ不足で二千年間の論争していたわけだ*5

5. 統計学は悪魔の証明に弱い

科学は理屈よりも事象重視なので、理屈で疑似科学を排除するのは二重基準になる。疑似科学も事象が確認できるかで判断しないといけない。しかし、疑似科学の良くある論法で、効果が無い事を立証しろと言うものがある。これは悪魔の証明と呼ばれ、統計分析の弱点を突いた良く出来た詭弁だ。

統計学の仮説検定は、帰無仮説を棄却できるか否かを判定し、棄却できたら対立仮説を採用する。棄却できない場合は、帰無仮説も採用されずに、不明となる。対立仮説が正しくても、観測誤差で仮説を棄却できない場合もあり、データ数を増やしていくと帰無仮説を棄却できる可能性は残されるためだ。

ここで注意して欲しい事がある。効果ゼロは帰無仮説になる。上図は有意性の有無を大雑把に表した概念図だが、観測データの帰無仮説(H0)からの外れかたで、統計的有意性の有無を判断していることが分かると思う。

統計学では効果ゼロを検定する事ができないので、実は「効果なし」を証明できない。

6. 主張の立証責任は「効果あり」側にある

別に効果ゼロが立証できない事は、問題にならない。主張の立証責任は「効果あり」側にあるとしておけばいい*6わけで、立証されるまでは仮説で信じなくていい。立証したと証拠を出してきたら、統計分析が正しいか*7、追試で同じ結果が出るかを、例えば大槻義彦教授が確認する。

こうやって適切に取得された膨大なデータが蓄積されていき、そのうち今後も帰無仮説を棄却できないであろうと見なす事になる。メタ・アナリシスと言って、権威が多くの研究を俯瞰した上で「効果なし」と認定するわけだ。

こうしておけば理屈の上では完全無欠の予定説も、科学的に肯定する必要が無くなる事は注意されたい。

*1昨年、ヒッグス粒子が発見されたので、素粒子の標準模型が標準理論になるかも知れない。

*2塔からまっすぐ物体を落とすよりも空気抵抗の影響は落下速度が遅い方が少なくなるし、観測が楽になる。現代風にやれば、以下のように空気を抜くことになるが、当時は真空が可能である事は知られていなかった。

*3後の5節の議論を読むと、効果なしは否定できないのでは無いかと思うかも知れないが、帰無仮説をアリストテレスが予測した位置に置けば、アリストテレスが正しく無い事を検定できる。当時は統計学は無かったし、一目瞭然だから不必要だと思うが、あえて検定すればこうなる。

*4コペルニクスの本が凡人には難しすぎたと言う話もある。

*5この物語には続きがある。地動説はニュートン力学で理論的に説明されていたのだが、現在では相対性理論に取って代わられている。相対論の場合は、水星の近日点移動をより良く説明した事で認められたそうだ。100年間で574秒のずれが起きるらしいが、ニュートン力学だと531秒しか説明できないのに、相対性理論だと574秒をきっちり説明できる(EMANの物理学)。

*6低レベル放射線障害は、被害ありと閾値あり(=被害なし)で言い争っているので、どちらに立証責任があるのか不明な感じだが、被曝量ごとに検定を行っているので、被害あり側に立証責任があるようだ。トービット・モデルなどで閾値自体を検定する事もできるのだが、流行っていないのが気になる所。以下のようなグラフもあるから、既にされているのかも知れないが(金子(2007))。

*7疫学データなどは適切な処理が困難な事も多く、ランダム化比較試験(RCT)など、データ取得手法自体を工夫するほうが望ましい事も多い。

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