2013年2月28日木曜日

貨幣乗数の不安定性と言う意味での日銀理論を振り返る

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リフレーション政策推進者が気に入らない金融理論を日銀理論*1だと主張していると思っているのだが、貨幣乗数(信用乗数)、もしくはマーシャルのkの不安定性の事だと言う指摘が多数あった。

この貨幣乗数の安定性の問題は、1980年代に小宮-外山論争、1990年代に岩田-翁論争として知られ、そもそもの日銀理論がこれなのは間違いない*2

ところでこの論争は、20年近く経った現在では経験的には決着がついている。

日本の統計。2001年~2006年の量的緩和期に注意してみてみよう(『金融活動指標』の解説)。バブル崩壊後、貨幣乗数は13から7未満まで低落傾向が続いた事が分かる。

米国の統計も見ておこう(世界経済の潮流 2012年II)。リーマンショック後の資金供給で、貨幣乗数は9から4程度まで低下したことが分かる。

貨幣乗数≒マネーストック/マネタリーベースなので、マネーストックとマネタリーベースの関係も確認しておく(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図)。

貨幣乗数には短期的にも長期的にも大きな変動があって、全く安定していない。特に流動性の罠にはまると、マネタリーベースの増加を相殺するように貨幣乗数も変化するようだ。

なお「日銀理論」と言うもののこの現象は広く認識されており、クルッグマンあたりはこれを前提としてインフレ目標政策の導入などを主張していた。

*1強い理論があるわけではないので、the rule of thumb of BOJと言う感じではある。

*2歴史的にはコメントにあったように日銀理論≠日銀の意見なわけだが、日銀理論を現在までの金融政策の学術的根拠と捉えても良い気がする。そうしないと、各種目標政策の導入に消極的であったこと、許容するインフレ水準が低いこと、インフレと失業率のトレードオフ関係を重視しないこと、流動性リスクを重視していること、金利上昇に警戒していることなど、現在までの日銀の姿勢が理解できないからだ。これらの姿勢は、リフレーション政策推進者によく批判されている。

3 コメント:

POM_DE_POM さんのコメント...

リフレ派の田中秀臣氏が、こうした貨幣乗数の不安定性に対する指摘を「データの悪用」と非難していた事を思い出したり。(byエコノミストミシュラン)
あまりにもインパクト強かったので、これでリフレ派不信に陥ったのかも。


こちらを見る限り、金利の調節を重視する実務家と貨幣量の調節を重視する学界(マネタリスト?)の対立、という側面もあるんでしょうか。

マネーサプライ・コントロールを巡って
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/1993/kk12-1-5.pdf

POM_DE_POM さんのコメント...

もう1つ思い出したので、ついでに。
貨幣乗数の不安定性を日銀理論と呼ぶなら、貨幣乗数の安定性を仮定するのが標準理論でしょうか?

そうすると彼らのマネタリズムはClassic MonetarismではなくPolitical Monetarism(DeLongの分類)に思えるのですが。もはや標準理論とは呼べない気が。

4つのマネタリズム
http://hicksian.cocolog-nifty.com/irregular_economist/2006/04/4_f2c0.html

まぁ、何気にリフレ派のブログだったりするのですが。

uncorrelated さんのコメント...

>>POM_DE_POM さん
> 貨幣乗数の安定性を仮定するのが標準理論でしょうか?
> もはや標準理論とは呼べない気が。

流動性の罠は標準的な状況では無いですからね。

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