2011年9月16日金曜日

韓国電力不足で得られる教訓と衝撃

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ソウルをはじめ韓国各地で15日午後3時半頃から大規模な停電が発生、交差点の信号が消えたり、エレベーターに人が閉じこめられたりするなど混乱が広がった(読売新聞)。

韓国電力市場が発送電分離されており、安く電力が供給されていた事から、発送電分離が議論されはじめた日本の電力政策に与える影響も少なくない。発送電分離が電力需給の最適化をもたらすとは限らない事は、より広く認識される事になるであろう。

1. 発送電分離され、低い電力料金の韓国電力市場

韓国の電力会社は、発送電分離されている。発電会社と、韓国電力公社(KEPCO)と、小売会社が電力取引所で電力の売買を行い、需要者へ供給を行っている。なお、原子力発電はKEPCOの子会社が行い、KEPCOに直接電力を売却している。制度的には比較的先進的だ。

電力価格も、2006年で家庭用が34%、産業用が39%ほど日本と比較して韓国の方が安い(経産相)。その後のウォン安で日韓の電力料金差はさらに広がっている。ただし、電力自由化前から日韓価格差は存在しているので注意が必要だ。

2. ナッシュ非協力ゲームによる市場の失敗の悪化

電力価格が安すぎて需要が伸びすぎたか、電力需要予測を誤り設備投資が過少だったかで、韓国に「市場の失敗」があったのは確かだ。さらに電力市場は価格や需給が硬直的な面もあり、電力事情が逼迫してからは、ナッシュ非協力ゲームの囚人のジレンマの状態になり状況が悪化する。

電力供給が逼迫している事は、需要者は理解していたはずだ。しかし自分がエアコン利用を抑制しても他者がエアコンを使って大停電が発生しうるとき、ゲーム理論のナッシュ非協力ゲームは全員がエアコンを利用することを示唆している。最初から暑い思いをして節電をした上に大停電に巻き込まれるなら、停電までエアコンを使い続けた方がマシであろう。もちろん大停電が無い方が全員の状態が良くなるので、大停電はパレート非効率的だ。

3. 韓国のエネルギー政策の失敗と繰り返す電力危機

実は韓国は冬にも電力危機を経験している。電力価格を石油などの他のエネルギー資源に対して抑制したために、暖房における電力需要が飛躍的に伸びたためだ(AFP)。1月24日~2月18日まで、百貨店やディスカウントストア、ホテル、事業所、学校などの441か所で暖房の設定温度が20度以下に制限され、違反者には最高300万ウォンの罰金が科された。今回、この電力使用制限令が出されなかったのか、出しても無駄だったのかは分からないが、構造的な電力問題を抱えているのは確かなようだ。

追記(2011/09/16 14:16):「電力自由化」が行われた韓国だが、産業立地政策で意図的に価格が原価より安く提供されており、原価割れの水準となっている(JBPress)。電力料金は市場で決定された価格ではなく、2008年には公的資金による補填も受けている(電気新聞)。

4. 日本の発送電分離論争に影響は必至

日韓の経済構造は輸出加工型経済で似ていると言われており、韓国の二度の電力危機は日本の発送電分離による電力価格の引き下げ論に、多かれ少なかれ影響を与えるのは間違いない。発送電分離が韓国の電力問題の直接の要因だとは言えないが、発送電分離と言う競争的な市場で、電力の価格形成が適切に機能するか、需要や供給が一致するか、どのような政府支援が必要かは検討が必要だ。

5. 日韓の社会構造と電力危機

ただし韓国の経験が日本にそのまま活かせるわけではない。今年の日本の夏は、韓国とは逆の事例が発生した。つまり上述のナッシュ非協力ゲームが成立せずに、パレート効率的な電力事情となった。100万円以下の罰金と言う誤差のような制裁しかない電力使用制限命令で大口需要家はせっせと節電や電力需要時間帯を調整し、何の命令も受けていない小口需要家もせっせと節電を行い、何とか乗り切った。@birdtaka氏作成のグラフを見てみると、15%程度の電力抑制に成功している。

6. まとめ

韓国の電力不足で得られる教訓は、発送電分離による電力自由化は市場の失敗による需給バランスの悪化をもたらしうる一方で、電力使用制限令の存在にも関わらず、最後は理論通りに大停電が発生すると言う事だ。日韓の社会構造の違いは留意する必要があるが、日韓は経済構造が似ていることから、期待過剰な電力自由化論に一石を投じると考えられる(関連記事:米国は電力小売市場自由化で、電力価格が下がった電力自由化で原子力発電所は無くなる?電力自由化について知っておくべき7つのこと)。

2 コメント:

Mu1hOcRDKogM2t61JqCac8duq6acYw-- さんのコメント...

「発電と送電の分離」と「停電」の関係は今回ないように思います。

発電側の競争が激しくなり、需要に見合う供給確保をするための投資を発電業者が渋ったために、発電能力が不足したというロジックならわかる気がします。

が、今回の韓国の事象は、すでに暑い夏を乗り切ったと判断し、冬に向けた設備点検のためにいくつかの発電所が点検状態に入ったため、突然の猛暑再びの事態に発電容量が不足したというのが大きな要因ではないでしょうか。

uncorrelated さんのコメント...

コメントありがとうございます。

「発電と送電の分離」は、電力市場の問題を解決する「銀の弾丸」ではなく、状況によっては韓国のような問題を引き起こすと言う事です。

今回の韓国の事例で言うと、直接的には予測失敗と言う事になるのでしょうね。しかし、政府が電力価格を原価割れの状態まで引き下げたために、需要が上ブレしやすい電力市場になっているようです。冬場にも問題を抱えていました。

得られる教訓としては送発電分離だけでは意味が無く、どのような競争環境を作り、どのような価格形成が妥当なのかも踏み込んで考えないと行けないと言う事でしょうね。

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