2010年6月14日月曜日

スズメ減少説に惑わされる人々

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最近、スズメ(右の写真、出所)が減少しているのではないかと言う話が持ち上がっている。もとは三上修氏の『日本におけるスズメの個体数減少の実態』(日本鳥学会誌58号,2009年)という研究論文で、やや仮説的に警鐘されている内容だ。これを環境省の資料内で見かけた東京新聞の記者が、環境省の発表だと誤解して報道してしまったようだ。この点は三上氏のウェブページに詳しい説明がある。

さて、出所の誤解はともかく、スズメの減少は大きな反響を呼んでいる。身近な鳥に関心を持つのはいいことだ。しかしながら、三上論文からスズメの危機を推測するのは、氏自身が指摘しているように無理がある。三上論文は、部分的なスズメの個体数変化、スズメによる農業被害の経年推移、駆除狩猟されたスズメの個体数の経年変化の三つのデータから、スズメの数を推測している。特に氏は、スズメによる農業被害の経年推移のデータを重視して分析したようだ。

同種の研究が無いとのことなので、その発見は高く評価されるべきではあるが、氏自身も認識しているように、直接スズメの数を観測したデータが無いので、スズメの減少は仮説の粋を出ない。

例えばスズメの農作物の被害は大部分が米に集中しているが、米農家が防鳥網(右の写真、出所)を設置することなどで、スズメの被害を減少させることができる。この場合は、スズメの数が一定でも農作物を食べることができなくなるので、農業被害は減少することになる。この場合は三上論文の前提が崩れる可能性が高い。防鳥ネットの効果を評価することで、三上論文の推論が正しいかを検証してみよう。

まずは、 スズメの農作物被害を確認してみよう。被害量と被害面積の統計データが出ている。1991年は特にスズメの被害が大きい年だったようなので、1992年から見ていこう。被害面積は激減しているが、被害量は比較的なだらかに減少している。

この被害の減少が、農家の努力によるものかが気になるところだ。社会科学的には防鳥ネットの販売数と、スズメの農作物の被害の関係を確認するのが望ましいが、防鳥ネットの販売数は入手できないようだ。そこで、鳥類全体による農作物被害額を確認してみよう。防鳥ネットは、鳥類全体に有効であるはずだから、農家の努力は全ての鳥類の被害を抑えるはずだ。鳥類全体による被害の傾向よりも、スズメによる被害の傾向が異なれば、スズメだけに何か特殊要因(=個体数の減少)が発生していることになる。

上は、鳥類全体の農作物の被害ではあるが、スズメと同様の傾向が見て取れる。つまり、他の鳥とスズメは同様の傾向を示している。

比率にすると、もっと明確にその影響が現れる。被害量の割合は1994年からは5%強で安定的に推移しており、スズメだけに何か特殊要因が働いたとは言えない。被害面積の割合の縮小は興味深い傾向だが、被害にあった農地は集中的にスズメに荒らされていることになる。スズメが集中して生活するようになったのかとか色々と想像できるが、このあたりは今後の調査で明らかになる点であろう。

まとめると、スズメによる農作物被害は減少しているが、他の鳥類の被害と同様の傾向であり、これは農家の鳥類対策が進んできている為である可能性がある。つまり、スズメによる農作物被害の減少は、スズメの個体数の激減を意味するとは言えない。

三上氏自体は、氏のウェブページの記述を見る限りは研究成果を限定的に解釈しているので、分析のミス・リーディングは起こしておらず、上記の数字も認識していると考えられる。しかしながら、東京新聞の記者や、それに追随した人々の中の一部に、スズメの激減を事実だとして報道してしまったので広く誤解が広まることになったようだ。

さて、日本野鳥の会が、スズメの実態調査を行うことにしたらしい。これはとても大事なことで、スズメの営巣や、スズメの食物の実態が分からないと、スズメによる農作物被害とスズメの生息数の関係にどれぐらいの関係があるか分からないからだ。そんなことは無いであろうが、スズメが意外に雑食で、米より美味しい食物をみつけていたら全ての根底がひっくり返ってしまう。科学は結論よりも手法が大事なので、往々にして素人が結論だけを引き抜いて騒ぎにしてしまうことがある。ニュースを報道する人々は、真実を認識するには過程を追いかける忍耐強さがいることに、もうちょっと気を払うべきであろう。

2 コメント:

MIKAMI さんのコメント...

三上本人です。
非常に興味深いご意見ありがとうございます。

私の研究を好意的にしかし批判的にみてくださりありがとうございます。

安易に結果を受け取ることへの警鐘、わたしもまったく同感です。また、農業被害のデータからスズメの減少について述べることが誤った結論を導きだす可能性についてはまったくもって賛成です。


uncorrelatedさまがやった解析は私もしました。

その結果に対する判断に違いがあるので面白いのですが、私は同様のグラフを書いて、「全体に対する割合も確かに減っているな」と判断して、(農業被害のデータを使ってもよいなと)安心した覚えがあります。

確かにこれが、「被害面積が30%で変化がない」、「被害量も20%で変化がない」という場合であれば、これを使うのは意味が無くなってしまうかもしれませんが、減少傾向は見て取れます。

また、ご指摘のあった5%あたりで下げ止まっていることですが、ある意味しかたないかと思います。

被害そのものが小さくなると全体に対する寄与が小さくなります。たとえば全体が100のときに、スズメの被害が10から5に半減すると全体の割合が5%減少しますが、全体が100のときに5の被害が半減して2.5になっても、2.5%の減少しか見られないことになりますから。つまりスズメの個体数が毎年、同じ割合で減少して、その分被害が減少していったとしても、どうしても全体に対する割合の下がり方は鈍くなってしまうということが言いたいわけです。


そういう理由もありますが、実はそれ以外の理由で私は上記の解析結果を最終的には使いませんでした。
uncorrelatedさまはあまり鳥に詳しくないとお見受けしましたが(もしそうでなければご容赦ください)、問題はそこにあります。
他の鳥類被害と一緒に計算すると実は変なことが起こり得るのです。

スズメの他に大きな農業被害をもたらす鳥は、カラス、ヒヨドリなどですが、これらはイネにも害を与えますが、多くは果樹などです。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_zyokyo/h14/pdf/ref_data1.pdf

カモはイネに被害を与えますが、スズメとカモでは被害を与える時期も違いますし、防鳥方法も異なります。

なので、それらを混ぜて計算すると何をしているのかわからなくなってしまいます。しかも、それぞれの鳥種が害を与える農作物の作付け面積も変化していますから、さらに何を計算しているのかわからなくなってしまうのです。

というわけで、私の解析が不十分であるのと同様に、uncorrelatedさまの解析にもブラックボックスのところがあるわけです。

と、批判めいたことを書きましたが、冒頭で申し上げましたように、農作物被害だけからスズメの減少を言うのには無理があるというのは、まったくもっておっしゃる通りだと思います。


論文の中ではもう少し多様な面から減少を検討しています。
たとえば次のようなものも使っています。以下のサイトの251ページをご覧ください。
http://www.biodic.go.jp/reports2/parts/6th/6_bird/6_bird_47.pdf

これは環境省が日本の鳥類の繁殖分布を調査したもので、1970年の終わりごろと2000年ごろが比較されています。スズメを対象としたわけではなく、広く鳥類を対象とした調査結果です。

詳しく説明するとかなりの文字数を割かなければならないので簡単にしますが、色が濃ければ濃いほどスズメの繁殖が濃厚なことをあらわしています。ぱっとみて色が薄くなっているのが見て取れるかと思いますが、調査面積が減ったから薄くなったわけではありません。まず間違いなくスズメが減少した結果だと思われます。また、実はこの図は、減少を過小評価するように解析されているのですが、それでも、これだけ減少傾向が見て取れますので、スズメが減少していることに間違いないかと思います。ただどれくらい減少したかということになるとやはりだいぶ曖昧さが出てきます。

それについては現在いろいろな文献を集めて、検討中です。
結果が出ましたら、また発表いたしますので、厳しい目で見ていただければと思います。

長文失礼いたしました。

uncorrelated さんのコメント...

三上様

コメントありがとうございます。
お察しの通り、私の専門は社会科学系なので、鳥の生態については詳しくはありません。本稿は「日本のスズメが10分の1に激減」という見出しが一人歩きしている現象に対して疑問に思い、執筆しました。

おっしゃる通り、スズメと他の鳥で被害を受ける作物は異なりますし、防鳥方法も異なりますね。全体傾向と同様なので、スズメの食害の減少は農業技術の進化と説明するには、論理の飛躍があったことは認めざるをえません。メッシュ分析は営巣数の何かだと思いますが、スズメが生息地域の面で減少傾向にある点も理解しました。

ただ、雑食性で都市での環境適応能力も高いとされるスズメの数の推移は、営巣数を数えるなど、もっと相関関係が明確な指標で割り出す必要があると思っています。また、スズメの減少傾向を否定できない一方で、スズメ以外の鳥類の食害も大きく減少している点は、依然として疑問に残ります。

詳細は、三上様を含む専門家の今後の調査で分かると思っていますが、身近な鳥だけに進展が気になるところですね。門外漢ながら、今後の研究の発展に期待させて頂きたいと思います。

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