2025年7月21日月曜日

参院選前の石破自民党に欠落していたもの

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2025年の参院選は、与党の惨敗とポピュリスト政党の躍進と言う結果に終わった。ここで言うポピュリズムとは、官僚や専門家の見解や、彼らが策定している方針に対する反発を指す。

様々なポピュリズムがあるわけだが、財政ポピュリズムと排外ポピュリズムが目立つことになった*1。官僚や財政学者は将来推計をもとに財政赤字の拡大を抑えるための施策を提案しているが、財政ポピュリストは消費税減税や社会保険料削減を謳っている。政府は経済や外交、国際的な非難(人道的な配慮)を考慮して外国人の受け入れ政策をとっているが、排外ポピュリストは、往々にして噂話だけをもとに、他のことは考慮せずに外国人の排斥を訴える。

1. 集票に有用なポピュリズム

ポピュリズムは票を稼げる。今回躍進した参政党の神谷代表は、それが目的だと隠す気も無さそうだ*2。ジリ貧感があった国民民主党も基礎控除引き上げ案*3という財政ポピュリズムに走ることで支持率を上昇させ、党首の不倫騒動などがあったのにも関わらず、今回、議席数を伸ばすことに成功した。票を稼げるわけで、あらゆる政党はポピュリズムを抱えている。自民党と公明党は、あらゆる方面の専門家集団の反対を押し切って消費税の軽減税率を導入した*4し、コロナ禍以後は給付金を何度も出してきた。排外ポピュリズムも、中心人物の素行の悪さ*5にも関わらず、日本保守党が議席を増やしていることから考えると、票になっている。

2. 迎合し続ければ破綻する

ポピュリズムに迎合し続けることは、よい政治とは言えない。往々にして、国力と社会厚生が低下しがちである。ぼちぼち排外ポピュリズムがデータや経験則に基づかないことが指摘されているが、思い込みであれこれ実行すると世の中は悪くなる。官僚や専門家の見解が常に正しいとは限らないし、とくに官僚や専門家がそれ以外の人々と価値観を共有しているとも限らないので、ポピュリズムだからと言って直ちに害悪とは言えない一方で、ひたすら民意も声の大きな人々の意向に即して何かしようとしても無理が出る。財政ポピュリズムはインフレーションをもたらすし、アメリカの第2期トランプ政権の排外ポピュリズムも、生産現場の混乱を招いているようだ。しかし、完全に無視をすることもできない。現実的な範囲の懐柔策で政治的妥協を図るのが、責任感のある政党となる。

3. 自民党のポピュリスト懐柔策

参院選前から石破自民党は、財政ポピュリズムと排外ポピュリズムの挑戦を受けていた。実際のところ、自民党としてはどちらに対しても懐柔策を出している。国民民主党玉木代表が持ち出した争点の「壁」に対しては、配偶者特別控除/特定親族特別控除の段階化、社会保険適用促進手当の支給、配偶者扶養の適用範囲拡大という施策をうったし、排外ポピュリズムの大きな問題関心であった在日クルド人問題に関しては、(岸田政権の成果ではあるが)2023年6月の入管難民法改正で方針が決定されており、2025年から難民申請が3回棄却された外国人は積極的に退去を強制している。2024年6月に、外国人技能実習制度を現実にあわせて育成就労制度に改正し、不法滞在者の削減策もとっている。

4. エコーチェンバーの中の人に懐柔策が届いていない

石破自民党は、これらの施策を十分にアピールしていたのであろうか。これらの施策が財政ポピュリズムと排外ポピュリズムに傾いた人々を呼び戻せるほどのものでは無かった可能性もあるのだが、観察している限りは届いていない。とくにポピュリストのオピニオンリーダーは政府非難のために、政府の施策にまともに言及しない癖がある。そして支持者はエコーチェンバーの中にいて、どうも政府は何も行っていないか、政府が行うことは悪いことばかりと理解している。誰もが同じ報道番組を見ていた時代ではないので、実績を誇らないと悪い印象をつけられてしまうのだ。政権与党は実績のアピールを工夫し、それに努力しないと、有権者の一部を切り崩されてしまう。給付金を配る約束する前に、実績を理解してもらうべく努力すべきではなかったか。政府広報になるので、選挙期間前から実施できるし、政党のお金を使う必要も無いし。

*1保守/右派ポピュリズムと呼ぶことが多いわけだが、日本保守党の百田代表は、「我々は特に保守というのを掲げているわけじゃない」と党名を忘れたことを言っていたし(2025年7月19日ReHac生配信)、参政党の神谷宗幣代表は、日本人ファーストは選挙のキャッチコピーで、選挙の間だけと言っていた(2025年7月6日のTBSのインタビュー)。

*2関連記事:参政党とは何なのか? — 政府や規範への反発を代弁することで集票を狙う集団

*3関連記事:国民民主党の基礎控除引き上げ案は、低所得者に不利なインフレ促進策だよ

*4関連記事:労働組合・経営者・税理士・学者「軽減税率反対!」自民党・公明党「皆様の理解を得たので軽減税率を導入します」労働組合・経営者・税理士・学者「」

*5関連記事:日本保守党の三名(もしくは四名)の議論の仕方は、民主主義にとって害悪

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