2024年10月6日日曜日

SNSにおける本当に危険な主張

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𝕏/Twitterからいつの間にかいなくなったクリッツアー氏の新刊『モヤモヤする正義』で、メディアで言論規制する必要性を訴えているようなのだが、氏が考えているようなことでは規制の必要は無い。例外的なケースはあるが、根拠のある方の影響力が大きいからだ。周産期医療で根拠不明な主張をした社会学者が、産科医たちとその追随者に非難された事例があげられる。

1. 根拠のある対抗言説はだいたい強い

根拠不明な風説がなかなか消えないこともあるのだが、ほとんどの人にとってどうでもよいことが多い。コラーゲンを摂取して肌に潤いを…と言う話で蒙る不利益はあるとしても僅かだ。歴史否認主義も同様。政治色の歴史学者が調査の上で否定された事実を根拠にした議論を参照し続けていたり、社会学者が特段の根拠なく物事を断定していても許されているのは、日々の生活にとってどうでもよいからだ。件の社会学者のように、明らかに有害と判断された場合、SNSでも強い非難を浴びる。トンデモ主張に苛立ちを覚える人は多いと思うが、根拠のある対抗言説は強い。

2. 虚偽や誇張で憎悪を煽る言説が厄介

例外となるのは、誰かが誰かに危害を加えていると言う指摘だ。イギリスで今年の8月に惨い殺人事件の犯人がイスラム教徒の亡命希望者だと言う偽情報が流れ、それによって大規模暴動起きたのは記憶に新しいが、関東大震災後の朝鮮人虐殺も朝鮮人が震災に乗じて日本人に危害を加えているという噂が契機になったとも言われる。ワイマール共和国でユダヤ人が迫害された理由に、第一次世界大戦でドイツが負けたのは、ユダヤ人がドイツを裏切ったからという虚偽の情報が流布されたためと言う話は有名だ。今の日本でも、埼玉県の在日クルド人集団が日本人に被害を与えている、日本人に悪意を持っているという噂が繰り返し流され、脅迫で日本人に逮捕者が出ている。

我々はあいつらから被害を受けている、迫害されている — と言うような主張が、虚偽や誇張であるときがもっとも危険だ。在日外国人が暴動や犯罪を起こすようなことももちろんあるし、そのときは行政や立法は対策を打たないとうけないし、個人も安全配慮ですべきことが出てきたりもするので言論統制はすべきではないが、それにかこつけて嘘を吹聴する輩は少なくない。在日クルド人集団で言うと、店舗で暴れていたというような目撃談を語り、メディアが取材の上否定されても謝罪はもちろん訂正もしない輩もいる。その虚偽の目撃談は、何万とリツイートされ拡散されていた。究極的には嘘に踊らされて違法行為で迫害しようとする頭の弱い人々が悪いのだが、虚偽や誇張で憎悪を煽る輩にも道義的な問題がある。

3. 個人に対する言説は規制されている

クリッツアー本ではアンチ・リベラル、アンチ・フェミニストとされる人々が念頭におかれていると思うが、彼らもリベラルやフェミニストの言説が甚大な被害をもたらしたと、虚偽や誇張で憎悪を煽ろうとしている面がある。彼らは集団ではなくて個人相手にそれを実行したので、名誉毀損や侮辱などの不法行為になってしまい、民事訴訟で解決されることになった。なお、論敵の印象が悪くなるように論敵の発言を捏造したり戯画化したりすると、名誉毀損になるよと言うのを繰り返し指摘しても、虚偽や誇張で憎悪を煽っている自覚が無いのか反省の色を見せないことが多いので、今後も訴訟は続きそうである。

4. どうヘイトスピーチに対抗すべきか

学者を含むリベラルが、気に入らない言説に片っ端からヘイトスピーチとレッテルを貼って回ったので意味不明な語になってしまったが、 元来ヘイトスピーチとして問題にされるべきは、虚偽や誇張で憎悪を煽る言説であった。リベラルを自認する学者が虚偽に近い情報を元に問題提起をしていたりするので、そのような定義を採用したくなかったのかも知れないが。

さて、迅速に対抗言論をぶつけられればよいのだが、ヘイトスピーチだと確認されるまで時間がかかる。社会に不安を覚えている人や党派性のある人は、悪意がなくても騙されて拡散に加担してしまいがちだ。さらに最近はテクノロジーの進歩で、画像や動画を用いたものも散見され、虚偽だと見抜く難易度が上がってきている。情報の発信源に注意することの重要性を周知するなどの啓蒙活動の他、システム的な補助も加えてもよいかも知れない。SNS検閲にならないように、虚偽や誇張と確認された情報を配信したり、拡散した人のレーティングを下げるのはどうであろうか。嘘つきマークはつくが、自由にポストはできる。SNSによっては経営者のレーティングが悲惨なことになるので、導入は無理かも知れないが。

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