2025年9月6日土曜日

アメリカ流の逆境指数は不正防止が困難だし、何かの事情で女子集団の成績が劣るときに女子ではなく女子校に加点されるし、女子がさぼっているだけだとしても女子校有利になる

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大学入試の女子枠批判者として知られるNENENENE@研究こと國武くにたけ悠人ゆうと氏が、今年の3月頃から女子枠ではなくて逆境指数を使えと言っているのだが、少なくともアメリカ流の逆境指数は女子枠より歪な結果をもたらす可能性があるので指摘したい。

逆境指数(Adversity Score)は聞きなれない言葉なのだが、生徒が置かれた学習の困難程度を表す指数だ。2019年にアメリカで大学進学適性試験(SAT)で導入しようとして頓挫したものは、地域と高校の社会経済環境を考慮し、人種や性別などの個人の属性を考慮しない。なお、逆境指数を構成していた小項目が、landscapeとして導入されている。入学選考でどれぐらい使われているかは定かではないが。

既に指摘されているようだが、アメリカ流の逆境指数は耐戦略性が低い。住民票の移動や転校などによって、加点を狙うことができる。また、女子生徒が学習困難になる社会的状況があっても、アメリカ流の逆境指数は状況を直接改善しない。なお、アメリカでは地域と高校ごとに人種や家計所得が偏るので、利用すれば間接的には人種や家計所得を考慮した入学選考となる。

日本は(男女比から実質的なものも含めて)女子校がそれなりあるので、女子校への加点から間接的に改善がされるが、共学の女子は利益を得られなくなる。さらに機械的に加点されるので、女子が全体として選好から理数系科目の勉強を怠っていた場合、女子校の生徒は女子枠よりも不当に大学に入りやすくなる。女子枠が批判されている点が、逆境指数ではさらに歪になって保存される。

日本流の逆境指数を設計するのも容易ではない。家計所得や居住地などの加点の他に、大学入学共通テストの男女別平均スコアの差から、女子(もしくは男子)加点を行うとしよう。女子枠の代替として逆境指数を提案している以上、社会構造的に女子生徒が学習困難であると言うのは認めざるをえない。単純に点差で底上げすると、定員の2割程度の女子枠以上の強烈な積極的是正措置になる。

女子枠を批判するのは分かる*1。しかし、逆境指数という代替を提案するのは、問題を真面目に捉えていない証左になる。女子枠を批判的に検討したのと同じ観点で、逆境指数を批判的に検討したのであろうか。アメリカの逆境指数が頓挫した話がほとんど語られない。女子枠が欧米では憲法違反だと主張する人々が、欧州のドイツやフランスでは逆境指数の方が女子枠よりも導入が困難である*2話なども見かけない。

官公庁パワポ資料の愛読者は認識していると思うが、官僚は国外事情を(その道の専門家ほどではないが)よく調べている。そして政治家の皆さんに御説明にあがるので、ノリノリで虚偽を交えた女子枠批判を繰り広げていても、なかなか文部科学省の方針を更新するに至らない。「欧米では女子枠は違憲」「フランスとドイツにはありますよ」「女子枠より逆境指数の方が」「よりひどくなりますよ」と言う話になってしまって、女子枠有害論の説得力を削いでしまう。

*1様々な観点から批判はあると思うが、例えば、現在の日本には、女子枠で解消を目指したい女子生徒の理工系科目の学習を困難にする偏見や差別はほとんど存在しない。かつてほとんどが男子学生であった医学部は、女子枠などがなくても女子の入学比率が四割を超えた。他に列挙される女子生徒が理工系進学を躊躇させる理由も、女子枠で解決できるものとも思えない。自宅から通える大学でないと進学できないと言うのは、遠隔地の大学に女子枠をつくっても解決しない。ゆえに女子枠は単なる不公平な制度となり、男子生徒に不満が生じるだけの結果になる。

*2ドイツやフランスは男女格差の是正を政府に求める条文があるので、女子枠は憲法の平等条項の例外になりうるのだが、家計所得や居住地を例外とすべき条文はない。

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