2024年9月30日月曜日

岸田内閣の仕事を振り返る

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2021年10月4日から続いていた岸田内閣も、2024年10月1日までとなった。防衛を含めた外交政策で現実主義的な実績を残しているのだが、様々な御本人のものではないスキャンダルで内閣支持率が低迷し、その状態で自民党総裁選を迎えることになったために退任となった*1。しかし、岸田総理の意向なのかそうでないのか分かりづらいが、外交・防衛で様々な仕事をした総理で、支持率の低下につながった問題でも思い切った解決策をとってきたので、ここに称えておきたい。ネット界隈では不遇なので*2

1. 外交・防衛

日本の安全保障政策の原則を忠実に推進。ロシアのウクライナ全面侵攻に対して反対する姿勢を菅内閣のときよりさらに明確にし対ロシア包囲網にどっぷり参加、対中政策でも海上自衛隊の護衛艦が台湾海峡を通過させ、航行の自由作戦に参加した。安倍元総理の親ロシア路線は黒歴史になった。単に威勢が良いだけではなく、2023年6月に防衛費増額に向けた財源確保法を成立させている。増税は2025年に先送りになっているが、増税のない防衛力強化などと言う妄想は言わない。言っている人は悪罵のつもりであろうが、増税メガネは責任を果たしたことを表す賛辞だ。

2024年6月に、外国人技能実習制度を現実にあわせて育成就労制度に改正した。外国人技能実習制度は、人材育成による国際貢献と言う建前で、日本の中小企業が外国人労働者を確保できるようにしてきた制度だ。制度の趣旨と実態が乖離しているためか、外国人労働者を奴隷扱いするような不正が多発していた。2017年施行の改正法附則による2022年12月からの計16回の有識者会議の最終報告書に基づいた立法なので岸田総理の意向なのかはよくわからないが、淡々とこなしたのは確かだ。なお、岸田氏の実弟の旅行会社への利益供与となると言う批判があるが、同社が手がけているのは安倍政権からの特定技能研修生へのサポートであるし、独占的に手がけているわけではない。

2023年6月の入管難民法改正で、難民申請中・退去手続き中(仮放免)の在日外国人の処遇を決定した。難民申請が3回棄却された外国人は積極的に退去を強制する一方、長期間日本に滞在しており、日本の小学校から高校までの教育機関に在学している親子に、重大犯罪等がなければ、在留特別許可を与え、滞在を認めるようになった。人道主義的な面もある一方で、原則としては難民申請者に厳しい折衷主義で各方面から非難されている改正だが、政治的に実現できそうな他の解は思いつかない。また、安倍内閣のように何も手をうたないと、じりじり増えてしまう。

地元アピール感もあるが、第49回先進国首脳会議(G7広島サミット)も評価に値する。平和記念資料館(原爆資料館)の展示内容を各国首脳に説明しただけのことだが、核兵器の非人道的な側面を世界に訴える方法としては悪くないし、実現は容易ではなかった。核兵器の保有国、とくに実戦投下経験のあるアメリカでは、非人道的な結果をもたらすことを直視しない傾向があるのだが、無理やり見せることに成功した。もちろん、こんなことで核兵器が廃絶されたりはしない。しかし、大量破壊兵器が何をもたらすかの理解を広めることは、利用や拡散を止める試みを正当化するし、各国首脳に利用を躊躇わせる効果があるかも知れない。どちらにしろ日本の影響力は限られる。岸田文雄氏がこの問題でできる最大の貢献はこんな程度だ。

2. 安倍元総理の暗殺と安倍派

岸田内閣を考える上で、安倍元総理の暗殺と安倍派は避けて通れない。安倍元総理はカリスマで、安倍派は自民党内の最大勢力だった。安倍元総理が暗殺された後、国葬を実施して安倍派や安倍元総理の支持者に訴求しようとした。ところが、安倍元総理や他の自民党議員と旧統一教会の関係が明らかになり、内閣支持率が急落。安倍元総理のビデオレターは、記念撮影をしただけ、献金してもらっただけでは済まない可能性を想起させ、旧統一教会の名称変更問題という疑惑が出てきた。さらに、安倍派を中心にした政治資金パーティー券キックバック政治資金収支報告書不記載問題が生じて、さらに打撃を受けた。国葬儀を行ったためか、自民党総裁として管理監督責任があると見られたか、安倍元総理もしくはその子分の仕業であっても岸田総理の支持率は低迷し続けることになる。

しかし岸田文雄は伝説をつくる。歴代政権が行わなかった旧統一教会の解散命令請求を行った。民意に推されてと言う面はあるが、自民党を支持する組織には宗教団体も多い。信仰の自由を妨げるものではなく、税制上の優遇措置を取り上げる宗教法人としての解体に過ぎないが、刑事事件で有罪になっていない団体で前例は無かった。裁判所がどう判断するかは分からないが、小さくない決断だ。また、麻生派を除いた自民党の派閥を形式的に解体してしまう。派閥解体とか言っても実態は残ると思っていたが、自民党総裁選出馬断念の後、候補者が乱立する派閥の影響力の低い総裁選が実現されたので、完璧でないにしろ実態も伴っていた。なお、裏金問題では、2024年4月に党として39人を離党勧告や次回選挙の非公認を含めた処分の後、6月に改正政治資金規正法を成立させているのだが、派閥解消は1月の決断である。善し悪しは分からないが、尋常ではない。広島風お好み焼きが一番だとスナク英首相に吹き込んでいたときに気づいた人もいたであろうが。

3. まとめ

経済学徒の皆さんは、日銀人事の正常化(政策委員会の非リフレ派化)や児童手当の所得制限の撤廃は評価できるが、突然の低所得者向け給付金や所得税減税はダメだと思っていると思うし、省庁間の話し合いで決着がつかず岸田総理が裁定した診療報酬改定などでも議論はあると思うが、総括すれば、外交・防衛問題に功績を残しつつ、自民党議員への非難の対応に追われた内閣だ。

世論はやらかした議員を厳しく罰し、過去のしでかしをとことん追求することを要求していたが、組織政党ではない自民党では困難だ。100を超える議員が強く反発すれば内閣が倒れる。そして、100を超える議員が絡んだ問題であった。また、旧統一教会の問題などは、もし本当に取引があったとしても、自民党内で関与した少数の人々が口を塞げば、それ以上の追求は困難である。逆に、本当に何も無くても、何もないよと言う証言しか手に入らない。なお、御子息の脇の甘さもあってこれも支持率を下げたとは思うが、自民党青年局近畿ブロック会議後の会合後の懇親会のはっちゃけ度に比較すれば、うぇ~い度は高くない。誰が総理であっても、どうにもならない状況であった。

総裁選でぼちぼち岸田がよかったという声があったのだが、悪い総理大臣とは言い難い。制度的な制約があるので、岸田総理でなくてもどうにもならない。岸田氏から石破氏に交替になるが、自民党総裁の顔が変わることで有権者がこれまでのことを忘れてくれるかが、後任が上手く仕事ができるかの最初の鍵になる。

*1歴代の元総理で一定のファンを獲得しているのは安倍元総理ぐらいであるので、不人気と言うより普通かも知れない。

*2【解説】岸田首相にとって残酷な夏 多くの批判と不満を受け退任へ - BBCニュース

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