プーチン大統領のナショナリズムがロシアにウクライナ侵攻をさせたという言説をネット論客が唱えている。しかし、現時点の少なくとも建前では、プーチン大統領はナショナリズムではなく民族主義に傾斜している可能性が高い。
ロシアの安全保障のための戦いと言うのは、既にバルト三国がNATO加盟国なので無理がある*1。また、ウクライナ制圧後に配信される予定だったロシア国営通信RIAの原稿*2では、東スラブ民族の統一国家の樹立によってアングロ・サクソン系国家(と言うか英米欧)に対抗していく構想が語られていた。ロシア国籍を持つ人は結束すべしであればナショナリズムだが、スラブ人は結束すべしであるので民族主義になる。ロシア、ベラルーシ、ウクライナと言うナショナリティを尊重したら、ロシアがベラルーシとウクライナを併合する理屈が立たない。ウクライナで起きているのは、民族主義とナショナリズムの戦いだ。
汎スラブ主義に無理があることは注意しておこう。コーカソイドのスラブ語群の話者を指すスラブ民族と言う古臭い概念は、当該地域によく当てはまるエスニシティ分類ではない。元々は同じエスニシティであったとしても、違うナショナリティにあったためにエスニシティが分化したりもする。キエフ・ルーシまで遡ればモスクワ周辺の人々とキエフ周辺の人々のエスニシティは同一と見なせたのかも知れないが、キエフ・ルーシがモンゴル人に滅ぼされた後、モスクワ周辺からモシクワ大公国が発生してロシアに変化していった700年の歴史、キエフの南方のドニプロ川沿いのザポロージャと東南のドン側沿いにコサックが発生してポーランドやロシアやトルコと衝突してきた600年の歴史があり、ロシアとウクライナのエスニシティはかなり異なる。
プーチン大統領がどこまで汎スラブ主義傾斜しているのかは分からない。汎スラブ主義だとポーランドやバルト三国の併合も目指すことになるし、汎東スラブ主義だとしても、ロシア国内にいるタタール人やユダヤ人などの少数民族の位置づけが難しくなる。独立運動が起きてもロシア連邦から独立させては来なかった。アジア人は支配民族たるスラブ民族に従うべきと思っているのかも知れないが。
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