2022年3月3日木曜日

ウクライナ侵攻に関するロシアの言い分について

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ネット界隈に限らず、安倍元総理のような有力政治家の中にも、ウクライナ侵攻についてロシア政府の主張を請け売りする人々が多いので、一応、5点に絞って問題点を整理しておこう。言い分の対義語は奇数などと言う駄洒落に負けてはいけない。

  1. NATO加盟国の東方拡大がロシアの安全保障を脅かしていると言う主張は、(1)独立国の条約加盟は独立国の自由であるし、(2)ロシアは1997年のNATO・ロシア基本文書でNATOへの新規加盟条件に合意し、1999年からの東欧諸国のNATO加盟を認めてきている。(3)ベーカー=ゴルバチョフ会談におけるベーカー国務長官の発言*1は、書面の覚書が無いベーカー国務長官の個人的意見に過ぎないし、既にソ連が消滅しており、1997年の基本文書の合意と合致しないので、何者も拘束しない。

  2. ウクライナ政府がミンスク合意を守っていないと言う主張は、ウクライナ議会が特別地位法を立法するなど合意を履行する努力をしてきた一方で、協定違反の独自選挙を行ったり、停戦合意日時の1週間後にデバリツェヴェ市を占拠したり、ドンバス地方の国境管理をウクライナ政府にさせないなど、ロシア政府とドンバス地方の親ロシア派住民が合意を守ってきておらず、繰り返しロシア政府がウクライナ政府のみならずG7からも非難されてきたことを無視している。

  3. ウクライナ政府がロシア系住民を弾圧しており民族浄化を図っていると言う主張は、欧州安全保障協力機構(OSCE)ウクライナ特別監視団(SMM)や赤十字の活動がドンバス地方であるのに報告されていないので虚偽と判断せざるをえない。ロシアが独自情報を掴んでいるのであれば、それを開示して国連で問題提起をすべきであった*2

  4. 東スラブ民族の統一国家の樹立によってアングロ・サクソン系国家に対抗する必要があると言う主張は、ラテン民族も西スラブ民族もケルト民族も立場がないのはさておき、米国と英国と欧州の関係は必ずしも一枚板とは限らないし、安全保障と言う面ではロシアは戦略核をいっぱい持っているので安泰だ。メンテナンスするお金が無くて実は撃てないと言う話があってもそれはロシアの責任である。

  5. ウクライナ政府が核兵器開発をしていた/模索していたと言う主張は、非核保有国の原子力利用を監視している国際原子力機関(IAEA)が否定している(WSJ)。

ロシアとアメリカがそれぞれの同盟国の処分を決めて良いという冷戦世界観を隠そうとしているのだと思うが、どれもあまり上手くない。

*1【ロシアと世界を見る眼】ウクライナ加盟巡り解釈論が再燃 「口約束はあったが文書になっていない」のが真実か  | News Socra (ニュース ソクラ)

統一ドイツがNATOの加盟国としてとどまれるなら、「NATOの今の軍事的、法的範囲が東方に1インチたりとも広げないと保証することが重要だと思っている」と述べた。

*2小野寺五典衆院議員が2022年3月2日放送のTV番組BSフジ『プライムニュース』で、在日ロシア大使にこう指摘していた。

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