エミコヤマ氏が「性産業の需要を減らす」アプローチが、性労働に従事している人にとって有害でしかない理由を説明している。話がちょっと長いので、図を使って整理してみたい。
売春婦では無く顧客を取り締まるので、逮捕されると困る優良顧客がいなくなって*1需要が下がり、避妊や性感染症を気にしない不良顧客だけが残ると言う論理のようだ。また、売春婦は行き場が無い人々なので供給の価格弾力性は垂直*2となる。需要と供給の図にしてみよう。
D0-D1線が取り締まり無し、D0-D2線が取り締まり有りの需要曲線になる。優良顧客が離脱し、均衡点がE1からE2に移動するため、売春価格が下落する。D0-E1-E2が優良顧客がいた事による社会的余剰。
売春婦の生活変化も、図で説明したい。
O-P1-E1-SEが取り締まり無しの生産者余剰だ。O-P2-E2-SEが取り締まり有りの生産者余剰だ。明らかに面積が減る、つまり生産者余剰が減るので、売春婦の生活が悪化する。この面積は収入面の悪化しか表しておらず、不良顧客の増加によるリスクや取引費用の増加は別に加わる。
おっと三角形D0-E1-P1からD0-E2-P2に消費者余剰が増えるため、不良顧客の満足度は増加する。エミコヤマ氏は指摘するのを忘れているようだが、「リスクを軽視する客」が喜ぶ皮肉な状況だ。
結論
エミコヤマ氏のエントリーで、需要抑制アプローチが「経済学的な根拠のある主張であるという印象を醸しだすことにも成功している」が「このアプローチを支持する経済学者は、わたしの知る限り、世界中に一人もいない」とあるが、確かに経済学的には需要抑制は売春婦の生活悪化のみをもたらし、需要の抑制に失敗するように感じる。
留意点
留意点が二つある。まず、供給の価格弾力性があると、売春婦の生活悪化と言う結論は変わらないが、売春が減少する事になるので、売春婦が他に行き場が無い事が重要な前提になる*3。次に、子どもが尊敬する父親が売春婦と価格交渉する姿を見る可能性は減らせるとは思う。売春産業から優良顧客を減らす事を狙っているのであれば*4、需要抑制アプローチも不合理な選択肢ではなくなる。
追記(2012/08/09 20:30):エミコヤマ氏から、、単なる売春婦ではなく、行き場の無い売春婦に注目したわけなので、供給の価格弾力性が無い事を想定した議論をしたと追記を頂いた(Twitter)。
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