ノーベル賞経済学者のクルッグマンがNew York TimesのコラムでModern Monetary Theory(以下、MMT)を批判しているのだが、それを経済学者を自称する池田信夫氏が「クルーグマン対リフレ派」で激しく誤解しているので、間違いを指摘しておきたい。
MMT派は現代では政府が貨幣の裏づけになっているので、幾ら財政赤字を出しても貨幣を発行してもインフレーションにはならないとし、拡張的な財政政策や通貨供給量の拡大を主張している。しかしクルッグマンは、流動性の罠にはまっている現在では拡張的財政政策と通貨供給量は支持できるものの、通常の経済ではハイパーインフレーションになるとMMT派の論理を批判している。なお大半のリフレ派は流動性の罠にある事を前提にリフレ政策を主張しており、MMT派とは異なる。
池田信夫氏は「クルーグマンは最近、毎日のようにリフレ派(MMT)を攻撃している」と延べ、MMTとリフレ派が同じものだと誤解している。さらに、WSJのインフレ懸念を否定している別のクルッグマンのコラムのグラフを持ち出しているが、それらはMMT派やリフレ派を批判しているものではない。貨幣数量説の信奉者を批判したものだ。
米国ではどうもリフレーション政策がハイパーインフレーションを招くと批判されているようで、最近のクルッグマンのコラムはその懸念を治めるのを目的としている。何故か池田信夫氏はハイパーインフレーションが発生しないと言う主張をリフレ政策批判だと捕らえているようだが、リフレ政策の主な狙いは将来のインフレ期待を大きくする事だ。
そもそもクルッグマンは、リフレ政策によって引き起こされると考えられているハイパー・インフレーションは起きないし、緩やかなインフレーションは融資を促進し民間部門の負債負担を軽減すると主張している(NYTimes.com)。政治的コンセンサスが得られないのでリフレ政策は無理だと嘆いた事があるのだが(NYTimes.com)、これが読解力が十分でない池田信夫氏に主張を誤解される事となったようだ。クルッグマンもThe second-best answerのsecond-が理解できない人が経済学者を自称しているとは思わなかったのであろう。
リフレ政策自体には賛否がある。特に歴史的には日本は通貨膨張政策でハイパーインフレーションを引き起こした事があるので、専門家でも慎重になる人々は多い。それでもマクロ経済学者の少なくない人々がリフレ政策、もしくはインフレターゲティングを支持しているわけで、別に廃れているわけでもない(関連記事:リフレ政策は本当に下火になったのか?)。
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