風邪は厄介な病気だ。ウイルス性の感染症だが、原因ウイルスが特定されないからだ。インフルエンザであればワクチンや特効薬もあるが、それも全てのウイルスに有効であるわけではない。しかもウイルスは変異しやすく、薬剤耐性を得やすい面もある。従来は大抵の場合、解熱剤等の対症療法しか無かったわけだが、本物の風邪薬が発明されつつあるようだ。
POPSCIが、リンカーン研究所の化学・生物・ナノテク・グループの科学者が、全てのウイルスに有効な薬剤を開発しつつあると報じている。ウイルスは、寄生対象(e.g. 人間)の正常細胞に長い二本鎖RNAを送り込み、細胞を乗っ取りウイルスを増殖させる。DRACOと名づけられた新薬には、ウイルスの二本鎖RNAを拘束するたんぱく質とウイルス感染細胞を死滅させるたんぱく質が含まれており、ウイルス感染した細胞を見つけると機能するように出来ている。DRACOは全てのウイルスに共通する二本鎖RNAをターゲットとするため、正常な細胞には影響が無く、ウイルスの突然変異で効果が落ちる事が無いそうだ。
上の写真は上の1行目が非感染、下の2行目が感染を表し、左から1と3列目が放置された場合、2と4列目がDRACOが投与された場合の細胞の状態を表している。DRACOを投与した非感染・感染細胞は非投与の正常細胞とほぼ同じ状態である一方で、DRACO非投与の感染細胞は大きく状態が変化している。
DRACOはネズミでの実験では効果的かつ安全な事が確認されており、より大型の哺乳類でのテストに進む段階だそうだ。人間の免疫システムがDRACOを異物として認識しそうな気もするが、この点はiRNA治療の発展などもあり、クリアされつつあるのかも知れない(関連記事:ガンを殲滅?RNAi治療が臨床実験される)。
ペニシリンが発明されてから抗生物質耐性バクテリアとの戦いは未だに続いているが、DRACOが実用化されれば意外な事にウイルスとの決着の方が先についてしまう可能性がある(関連記事:医療危機に、ゴキブリの脳を使う、唾液や涙、粘膜に含まれる酵素で、多剤耐性菌を撃退、スーパーバクテリアは自己犠牲で仲間を救う、20世紀最大の発明の一つを、1500年前の古代ヌミビア人は知っていた)。もちろんDRACOの開発が済んで、それから特許が切れるのは何十年も先の話だ。貧乏人はDRACOを使えない可能性は多々あるので、風邪やエイズなどのウイルスには重々注意して生活したい。
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