2020年6月16日火曜日

ある統計学者のマクロ経済学のカリブレーション非難について

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なぜか一年前の「いかにしてマクロ経済学はオワコンになったか」と言うエントリーが話題になっていて、「カリブレーションという不思議な加持祈祷でパラメータの値を定める習性がある」と非難されている。ミクロ計量分析の結果からパラメータを外挿したり、マクロ経済データからパラメータを推定するのは、不思議な加持祈祷になるのであろうか。

動学経済モデルも複雑になってきて、物理学のモデルがそうであるように、数値演算してシミュレーションしないとモデルの特性が分からなくなっている。数値演算にするには具体的なパラメーターが要るので、定めないといけない。物理学の力学系モデル、例えば多体問題のシミュレーション*1をするときに、惑星の重量や速度と位置の初期値を定めることを指して、「我々が作ったモデルが正しいとは言えないので、現実の動きに合うようにパラメータを恣意的にそれらしい理由を付けて定めましょうね、というものである」とはいえないはずだ。マクロ経済学のカリブレーションとシミュレーションも、物理学の力学系モデルのシミュレーションと発想は大体同じであり、カリブレーション自体に非は無い。

変数を増やして過学習云々と非難されていたが、実際は逆で、そう変数は増やせない。名目金利を入れたら資本ストックが入らないように、簡単に計算不能に陥る。目的にあわせてモデルや変数を使い分けるad-hocさの方が問題かも知れない。統計的手法でモーメント法を使っていることが批判されているが、ブログ主も指摘しているが最尤法やベイス推定を用いることもされているので、根本的な問題ではない。そして、ベイス推定を用いたからと言って、構造方程式が「単なる統計モデルになる」理屈は無い。ニュートンの冷却の法則を前提に、熱伝達率と言うパラメーターを推定した場合、ニュートンの冷却の法則は「単なる統計モデルになる」のであろうか?

予測精度について非難されていて、これ自体は不適切な批判とも思えないが、動学マクロ経済モデルの構造方程式であることが予測精度の低下を招いていると言う主張は、常に成立しているとは限らない。インフレと雇用のトレードオフの経験則を前提に予測を立て、インフレ覚悟で雇用改善を計ったら、インフレ昂進だけしたと言う故事があるのだが、人々の将来予測、つまり合理的期待を経済構造に加えないといけないというのがルーカス批判だ。合理的期待を取っ払ってしまったら、フィリップス・カーブの失敗を内在することになる。予測精度が高くなったと言えるであろうか。

「何一つ分野の間で研究者に統一した見解がない」と言うのはある意味真実だが、RBCが原型となっていることから、そこにマクロ経済モデルが最低限備えるべきと考えられている共通項を見出すこともできる。「確率項を含めてモデリングをする意味が正直分からない」と非難されているが、リーマンショックのように外生的に思える経済ショックは実際にあり、(教科書的なRBCには無いが)確率項はそこにあるべきで、多種多様な経済政策をとっている各国の経済危機からの回復が似たような軌跡であることから、自律的な回復メカニズムが内在しない景気循環理論はおかしい。「バカげた理論」と非難されている理由が、実は大昔のマクロ経済モデルの予測能力や、そもそも数理モデルから予測を行わない非主流派経済学よりも改善している点になる。

もちろん他よりはマシと言うだけであって、そんなに予測能力に優れているとは言えない。リーマン・ショックの発生を予想できなかったと言ってよいであろうし*2、指摘されている通り、マクロ経済データはサンプルサイズが小さく、パラメーター自体が変化していくので時系列を伸ばすのにも限界があるので、モデルの複雑化にも限度がある。だからこそ、理論的背景で推定を補完しないといけない気もするが、物理学のように実験や観測を繰り返せる分野のようにはいかない苦しさがあるのは間違いない。しかし、この苦しさが解消される他のアプローチはまだ提案されていない。

ところで「数学音痴がmathinessにまみれた・・・」と言うような話があるのだが、数理モデルの構造としてはRBCの先祖はRamsey Modelで、数学者ラムゼーさんの発案だとされている。

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