2020年2月18日火曜日

ジェンダー社会学者の映画館のレディース・デイ擁護論について

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ジェンダー社会学者の澁谷知美氏が、映画館のレディース・デイが男女差別ではないかと言う主張に対し、女性の方が知人への口コミ発信率が高く需要喚起効果が高いと擁護している。バイラル広告料としてディスカウントしている説。発想としては分かるが、ちょっと根拠となる数字が弱い。

ネットでの不特定多数への発信は男女差が特に無い。口コミ効果があるにしても、知人からの評判を聞いて映画に行ったのか、ネットでの評判を聞いて映画に行ったのかを識別しないと、女性の方が広告効果が高いとは言えないのだが、参照している調査*1では区分けした質問が無かった。

1. 独占企業の第3種価格差別

教科書的な議論だが、独占企業の第3種価格差別と考える方が自然であろう。映画館は女性優遇の他に、学生割、シニア割など様々な割引を行っているが、これらのバイラル広告効果が高いと言う話は聞かない。バイラル広告が注目される以前から、女性優遇は広く見られる。男性と女性で需要の価格弾力性が異なることを利用した独占利潤の追求の一つが、レディース・デイと考える方が自然だ。

2. 弊害が規制すべきほどかは謎

ところで素朴には独占利潤の存在は余剰分析からよくない事なのだが、他の娯楽と競合している映画館のような業態の場合は、そう目くじらを立てない方がよいかも知れない。映画館も価格差別をしているから高利潤と言うわけでもなく、だんだんと数を減らして来ている。平均価格は長期限界費用に近そうだ。短期では独占的、長期では競争的。

立地に大きく依存しそうであるが、レディース/シニア/学生優待が無いと収益が落ち込みすぎて操業停止に追い込まれる映画館もあるであろう。現在よりも多くの料金を払ってでも映画館で映画を見たい男性客にとっては、操業停止になるよりは独占利潤を確保してもらった方が望ましい。自分が享受できなくても、各種優待があることで恩恵を得ているわけだ。

3. 統計的差別とそれが有害になる条件

はやぶさ氏が、男女の統計的な振る舞いの違いをもとに、男女の扱いを変えることを認めると、就職差別なども肯定されるのではないかと言う疑問をぶつけ、澁谷知美氏が、就職差別は統計的差別で経済的に不合理であり倫理的にも許されないが、レディース・デイはそうではないと反論しているのだが、就職差別もレディース・デイも統計差別になるから理解がおかしい。両者の違いはあるのだが、もっとしっかり説明する必要がある。

就職差別が統計的差別であってもいけないと言うのは、経済モデルに依存した理論上の話であって立証されている議論ではない。澁谷知美氏が参照している山口一男氏のスライドの13ページに、複数の経済学の論文が参照されているわけだが、ちゃんと目を通そう。山口氏は15ページから17ページで、「晩婚化の現在、離職コストは大きいとは考えられない」と言う前提をもとに、男女差別があると女性が自らへの教育投資などを怠るようになったり(Coate and Loury (1993))*2、労働市場から退出するなりして(Schwab (1986))、男女差別を肯定する男女の生産性の差を自己成就してしまうような数理モデルから、就職差別が統計的差別であっても問題と議論している。

統計的差別だからいけないと言うような話ではなく、それに沿うように女性の振る舞いが変化するメカニズムがあるからいけないと言う話なので、澁谷知美氏のツイートは正しくない。また、倫理的にも許されないと断言しているが、統計的差別に経済合理性がある場合にも倫理的に許されないと言うのにも、議論の積み重ねが必要なはずだ。

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