2019年12月20日金曜日

映画『奇蹟がくれた数式』が好きな文系は読むしかない『連分数のふしぎ』

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数学検定を御存知であろうか。「9歳で理数系大卒レベルの数学検定1級合格!」と言うニュースではじめて存在が知られる程度の実用数学技能検定だ。経団連が近年、大学生は全員、数学を学ぶべしと主張しているので、加盟企業の新卒採用でこの数学検定を評価してやることで数学学習を促せばよいと思っているのだが、出題を確認していなかったので公開されている過去問を見てみた。

なんと第1問が連分数。今までの人生、ほとんど縁が無い。何回かは何かの話で見かけるのだが、入れ籠構造の分数という極めて浅い知識で満足していた。さて、これ、どうやって解くんだっけ? — 整数部分が0, 2, 3, 2, 3, …と繰り返し部分がn回続く有限連分数だとすると、以下のように行列の乗算で分子と分母の値を同時に計算することができる話を見かけたのを思い出す。

後は行列の問題。繰り返し部分の固有値問題を解いて対角化して、n乗して、元に戻して、行を入れ替える行列をかけて、縦ベクトル(1 0)をかけると分子と分母が出るのだが、分子と分母のnの部分が相殺され、分子にあるものが消えるので、n→∞の極値も求まる。以下のように計算できた。しかし、計算に手間隙がかかりすぎて、時間もかかるし計算ミスもありそうだし、このやり方で試験中に解きたくない。何か方向を誤っている。

こういうわけで、やさしめの連分数の本を読みたくなったので、SNSで評判のよい『連分数のふしぎ』を手にとってみた。第2章まで読んだところで、案の定、筋の悪い計算方法を選んでいたことが分かった。つまり、

と置いて、二次になる連立方程式を解いて、Xを求めればよいことが分かった。うぅ、9歳の学童と比較して圧倒的にアホだ私(´・ω・`)ショボーン

頭が悪い人は直観で分かりそうだが、凡人なのでそうはいかない。やはり連分数についても、ある程度の常識は把握しておくべきなようだ。第3章以降も読み進めてみた。数学に関する小噺も色々と紹介されているが、連分数で数をよく近似できることを説明し、その応用例を古代や中世からの易しいものから、近代や現代のやや複雑なものまで紹介してくれる本。ラマヌジャンの人物像ではなく、数学における変態っぷりがちょっと分かる例が出てくるので、映画『奇蹟がくれた数式』が好きな非数学徒は読むしかない。

指数や対数が念入りに説明してあり、三角関数の知識が無くても分かるように余弦関数を使っていたりと、想定読者は中学生ぐらいのようだ。付録で行列が出てくる話があるが、予備知識はほぼ必要ない。最初は計算方法、アルゴリズムの紹介に留まるのかなと思ったのだが、意外に証明もあってこっそり数学の教科書にもなっていた。第7章と第8章で使う中間近似分数の定理7から9の証明が完全に省略されているので、ちょっと残念な感じではあるが。連分数表示で循環小数を有理数/2次の無理数/2次でない無理数に場合分けできることすら知らなかった私だからかも知れないが、知らないことだらけである。うわっ…私の数学リテラシー、低すぎ…?*1(;´Д`)ハァハァ — CHAPTER 9のリウヴィルの定理のあたり、よく理解できなかった。

プログラマとしてはアルゴリズム的なものは面白いのだけれども、残念ながら業務で応用方法が思いつかない連分数。しかし、簡素で思考パズル的に読め骨が折れるというわけではないので、クリスマスから年末年始までぼっち感あふれる人にお勧めしたい。ほら、実業界が建前で求めている人物像*2に近づけるし。

*1p.292の定理10のリウヴィユの定理の説明では、次数にかかわらず、有理数係数の代数方程式の解になる代数的数について誤差が一定以下のものは有限個しかないように思える。

一方、p.294の説明では、2次の代数方程式の解になる代数的数である無理数であれば、誤差が一定以下のものが無限個あると言う風に読める。なお、無理数とあるので、n=1はn=2の誤りであろう。

*2経団連が行ったアンケートによると、新卒採用にあたっては、履修科目や学業成績はほとんど考慮されていない。

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