2019年4月6日土曜日

性的暴行事件の判決について怒り出す前に知っておくべき5つのこと

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未成年者への性的暴行事件について無罪判決が出されたことでネット界隈で怒りの声が上がっているのだが、報道をもとに同情心だけで議論しており、視点が一方的かつ統計を参照していないので妙なことになっている。法曹の皆さんがそれとなくたしなめているのだが、なかなか納得はいかないようだ。気軽な気持ちでSNSをやっているためだと思うが、真面目な主張をしたいのであれば、以下のことぐらいは認識しておいて欲しい。

1. 日本の警察や検察には被疑者に冷たい

性的暴行事件は、被害者の証言のみでも起訴可能で、有罪に持ち込むことができる。客観的証拠が集めづらいためか警察や検察は被害者供述を重視する傾向があり、裁判官もそれを受け入れる傾向がある。被疑者の無実を立証するDNA鑑定の結果や、処女膜裂傷が無いと言う診断を、証言とあわないためか隠匿していたような事件もある。脅しと取られるような尋問で、検察が被疑者を自白させてしまうことも問題になっている。冤罪が明らかになった事件だけそうだと思うかも知れないが、過去の判例を参照しつつ起訴し、判決が下されるのが日本の司法制度だ。このように被害者証言に偏重している中で出た無罪判決なのだから、それ相応な理由がある蓋然性が高い。

2. 被害者証言が嘘だった事例も過去にある

被害者が狂言を述べるのが信じられないと思うだろうが、実際に冤罪事件が発覚しているわけで可能性としては排除できない。国外では行為を動画で撮影していたため、被害者証言がデタラメだと発覚して無罪になった男性もいる。国外の研究では数パーセントから1割の事件で、被害者が嘘を述べていると考えられるそうだ。いたいけな少女が嘘をつくとは考えづらいと言う意見も散見されるのだが、過去の冤罪事件では母親など言い含められたと言うこともあるし、検事が証言を誘導することも考えられる。年上の男性との愛人関係が親にばれてとっさに性的暴行を受けたと言い訳をした事例もある。中学生ぐらいになれば悪意に満ちた非行少女も珍しいわけではない。

3. 被害者の希望や利益に沿って起訴されないことが多い

日本で性的暴行事件で被害者と被疑者が和解し起訴されない傾向があることをもって、日本では性的暴行事件は有罪に持ち込みづらいと言う主張もあるのだが、起訴されないのは被害者の精神的負担や金銭的利益を考慮した結果に過ぎない*1。起訴すると氏名などが被疑者に知られるリスクがあり、公判中の被害者の精神的負担が大きく、さらに起訴前に示談が成立すると示談金がかなり大きくなる傾向があるからだ。一方、起訴後に有罪になると示談金が小さくなる一方で、加害者の返済意欲や返済能力が大きく落ちることになる。非親告罪化されたのは最近であるし、現在でも検察は原則として被害者の利益を優先するので、示談が成立すれば起訴は避けていると考えられる。

4. 体感や暗数では警察認知件数の国際比較の差は埋まらない

個別事件の報道から、日本全体で性的暴行事件で不当判決が蔓延し、それによって性的暴行事件が先進国でもっとも多いようなことを主張する人々もいるのだが、早まった一般化と言う誤謬推理になっている。性的暴行事件で無罪になる事例は数パーセントと珍しいので、そういう事件がメディアに取り上げられているだけだ。日米の報道を比較している人もいるが、日本の場合は年間に認知件数で約1200件、米国の場合は約10万件あるのだが、それらがいちいち報道されているわけではない。日本で広く報道されているような事例が、米国で無いとは限らない。

日本では警察に通報されない暗数が多いと言う主張もあるが、国連機関の指導等の下、標準化された質問票を用いた調査が行われ暗数も含まれる国際犯罪被害実態調査(ICVS)をもとにした第3回犯罪被害実態(暗数)調査では、強姦・強制わいせつの被害に遭った10人のうち6人が届け出ている*2。観測数が少ないので分散は大きいが、暗数が日米の差、人口あたりの認知件数27.3倍(2010年)を揺るがすとは言えない。

5. 不当に思える判決は、no means noだからかも知れない

被害者は拒絶したつもりでも、裁判官が拒絶を示す行為を行ったと見なさない場合もある。酔ったときに迫られて、はっきり拒絶できずに後で後悔したようなデートレイプの場合、現行法では、無罪になる可能性が高い。脅迫や所属先の上下関係などを使った威圧などが無い限りは、noと言わなければ和姦になるからだ。だんだんと認定される脅迫や威圧の範囲が広くなっては来ているが、現行法をyesと言わなければ強姦と言う形に変えないと、フェミニストの皆様が不当に思える判決*3は無くならないであろう。なお、他の先進国でもno means noな法律をyes means yesに変えようと言う運動があるわけで、日本で話題になるような無罪判決はそれなりにあると考えるべきである。

まとめ

被害者に同情するのはわかるが、被疑者だって人間なので無実の罪を着せるわけにはいかない。日本の司法は性的行為の有無の認定に関して被害者の供述に偏りがちな有罪バイアスを持つので、逆に言えば性的暴行事件の無罪判決にはそれなりの理由がある。メディアの報道にはかなりバイアスがあるので、国際比較をする場合は統計を参照するべきだ。また、暗数を理由に統計を否定するのは、暗数推定の結果からは無理がある。もちろん、あなたの道徳に反した行為が無罪になっている場合もある。それは往々にしてnoと言わなければ和姦になる現行法が問題なので、積極的同意がなければ強姦と言う形にかえるように主張しよう。

*1弁護士らめーん先生による「性犯罪被害者が被害を申告したら起こること」 - Togetter

*22010年の暴行脅迫による中絶数から推計(種部 (2011))では、妊娠率を8%とおいて認知件数の4割弱の暗数となっている。なお、緊急避妊薬を投与した場合は認知件数に含まれる前提となっているのだが、2010年の緊急避妊薬の処方ルールがそうなっていたかは確認できなかった。

*3noと言わなければ和姦から、yesと言わなければ強姦へ ? 性的同意の哲学的分析(の宣伝) - Togetter,関連記事:「日本の秘められた恥」の解消のために、性行為の前に積極的同意の記録が必要としよう

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