2018年10月10日水曜日

沖縄の歴史や社会を調べずにイデオロギー的歴史観を振り回している社会学者の卵

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社会学者の卵の古谷有希子氏が、ここ二ヶ月ぐらい沖縄の歴史や社会を調べずにイデオロギー的歴史観を振り回している*1のだが、なかなか酷いことになっている。沖縄は植民地だが、沖縄の人々はそれが認識できていないと高らかに宣言している。普通の定義では植民地とは言え無いし、これは他人をバカだと愚弄している。

植民地の明確な定義は無いのだが、普通は司法や行政が本国政府と切り離されている一方で、本国政府の意向に従わないといけない地域の事を指すことが多い。少なくとも現在において、沖縄と内地で司法や行政は連続しているから、植民地とは言えない。また、米軍は当初、琉球を日本の植民地と捉えて解放するつもりだったのだが、独立ではなく本土復帰運動が圧倒的に優勢であったので、本土復帰になった経緯がある。

「沖縄の状況や歴史はハワイとよく似ている」とあるのだが、そんな事は全く無い。ハワイは独立国として諸外国に承認されていた存在だが、疫病などもあり白人の入植者が多数派になってしまって、最後はクーデターで乗っ取られた。沖縄は1609年に薩摩藩の進攻を受け、明治政府の琉球処分で併合されるまで薩摩の属国であった*2が、内地から沖縄への入植者は多くは無い。また、内地と沖縄はずっと交流をしていて人種的、言語的、文化的には近いものとなっている。あえて言うと、デンマーク=ノルウェー同君連合に近い。なお、同じ北ゲルマン語群の同君連合ではあるが、ノルウェーは実態上は属国であったそうだ。

『本土のオーナー企業が沖縄でいくら稼いでも、その利益は本土の企業に行くばかりで「沖縄は物価が安い」という理由で低賃金で働く沖縄の労働者の懐にはわずかにしか入ってこない』と、独占国家資本による植民地獲得ですか、マルクス史観ですかと言うようなことを言っているが、本社が県内にないから法人収入が県外に出てしまうと言うのは沖縄に限った話ではないし、地方交付税交付金と言う補填措置もある。収奪構造があるわけではない。

『多くの日本人にとって、基地問題は「沖縄固有の問題」だろう』と書いているのだが、そんな事は無い。沖縄の在日米軍は面積では7割を占めるが人員では5割程度で、東京の横田基地など全国各地に米軍基地はあるし、そこで周辺住民と少なからず軋轢がある。例えば、1977年9月27日の横浜米軍機墜落事件では、パイロット脱出後のジェット戦闘機が住宅街に突っ込み、3名死亡5名負傷の惨事を起こしている。最近でも横田基地の米兵がヤクザの写真をとって喧嘩になるなどのトラブルがあるようだ。

目に付いた問題点を指摘してみたが、事情が良く分かっていない英語メディアに頼るのは筋が悪すぎる。言論統制されているわけではないし、日本語の文献の方が何にしろ詳しいし豊富だ。論文を探してもよいが、「沖縄の歴史と文化」「沖縄現代史」といった手ごろな本があるし、「復帰40年の沖縄と安全保障」「沖縄米軍基地をめぐる意識 沖縄と全国」は目を通して沖縄県民の感情を掴むべし。「同化と他者化」の証言部分は興味深い。

経歴からするとマルクス史観(か民族主義的歴史観)とジェンダー論を吹き込まれて、しっかりした現代風の調査分析を行なう方法論が欠如している*3気がするのだが、ともかく地域研究に入る前には歴史を調べるのがイロハなんで実行して欲しい。あと、調べる前に学校で習った型にはめようとするのはやめよう。結論ありきの議論になってしまう。

*1翁長沖縄県知事死去。沖縄の民主主義をどう守る?沖縄県じゃない基地住民の話も聞け!沖縄県知事選は沖縄の「民族的プライド」をかけた市民運動

*2琉球征伐後、琉球国は薩摩の附庸国である事を認めている。照屋(2000)によると、薩摩から派遣された在番奉行・大和横目の監督下に置かれ、薩摩藩と幕府の厳しい統制を受けていていた。清に朝貢していた事を理由に琉球王国は独立国だったと主張する人がいるのだが、薩摩藩の監督下で行なわれているので外国の自由を示すものではない。 琉米、琉仏、琉蘭修好条約(1854年,1855年,1859年)をもって自由な外交権があったと主張する人々もいるが、琉球処分(1872年)で条約が有効か明らかにされないまま実効力を失ったため、幕末の一時的な混乱と見なすべきであろう。薩摩藩も薩英戦争の前後に英国と外交を行なっているし、外国政府との合意自体が独立国である事を意味しないし、1854年から1872年までは独立国であったと言うのも無理がある。

*3朝鮮近代史を学んでいたそうなのだが、イデオロギーありきの歴史見解が横行していたところである(関連記事:統計からイデオロギーありきの歴史観を批判する「日本統治下の朝鮮」)。ジェンダー論もかなりの確率でお気持ち表明程度の分析メソッドしか身につかない(関連記事:ジェンダー論をやっている社会学者は“被害者”)。

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