サブカルチャーなど気軽に語ればよいと思うが、身近に接することができるものだけにアタリマエのことが見逃されがちのようだ。
昨日もポストモダン擁護者の一八世紀科学技術史研究者が、新世紀エヴァンゲリオン(1995年~)までは少女キャラは戦いでは役立たないヘタレだった論*1、米オルタナ右翼がジャパニメーション好きで、それに影響されて日本人女性好きである論*2を展開していた。
脇が甘いサブカルチャー論は昨日だけの話ではない。文芸評論家の東浩紀氏は「動物化するポストモダン」の議論に反例が多くあると疑問を投げかけられているし*3、氏をはじめとする批評家の「ゲンロン8 ゲームの時代」における日本製コンピューター・ゲームの論評は、多分に事実誤認があるとゲーム開発界隈の人々に非難されていた*4。
ポストモダン思想家だから脇が甘いのかと思うかも知れないが、女性にファンタジー作品は造れないという主張を行なった人が、ハリー・ポッターのローリング、ゲド戦記のグウィン、精霊の守り人の上橋菜穂子など大量の反例が投げつけられた事例もある。自分で反例が無いかちょっと想像すれば、炎上回避できたと思うのだが。
マンガやゲームだけではなく、アニメすら大量に製造され蓄積されている現在、個人の消費経験に頼ってマンガやアニメやゲームを語ると見落としが生じがちだ。むしろ、商業作品でも個人でチェックできるものは全体の一割にも満たないであろうから、抜けが出るのは必然と言ってよいかも知れない。今から過去作品をチェックするにしろ全部を確認する事は不可能なので、例えば毎年の売り上げや視聴率ランキングの上位10位までを観るなどと言うような計画的な調査をしてから語らないといけない。海外アニメと比較する場合は、海外アニメを同じように調べるべきであろう*5。
さらにサブカルチャーは動く目標でもある。萌え絵についてあれこれ議論があるが、オタク文化愛好者の間では絵柄についての変遷はよくある話題である*6。どの時代のどの絵柄から萌え絵とすべきかは議論の余地があるかも知れ無いし、定義を広くとる場合はどういう萌え絵について議論するのか最初に決める必要がある。
外国でのジャパニメーションの評価もよく議論になるが、英米のポリティカルコレクトネスにうるさいリベラル層の否定的な意見だけではなく、欧州やアジアなどの一般消費者の反応も考慮にいれるべきであろう。暴力と性描写にあふれたハリウッド作品に染まった人々が、マンガやアニメの表現を気にする理屈は難しい。実際、萌え絵に厳しい人々が嫌がりそうなヒロインに乳房を揉ますなどのシーンのある「君の名は。」を起業家のイーロン・マスクが面白いとツイートして話題になっていた*7。
同人誌を除いたメインストリームは営利行為なので、マンガやアニメやゲームの個々の作品に触れることは容易なのだが、全体としての傾向や特性を語るのは困難だし、受け手側の反応や受け手への影響を議論するための情報は往々にして不足している。ポストモダン界隈やジェンダー論をやっている社会学者界隈も、この辺を自戒した上で評論して欲しい。往々にして新聞や雑誌を使って語るには、気軽すぎである。
ところで、「響け!ユーフォニアム」や「残響のテロル」についても触れて欲しい。とくに前者は商業的にも大きく成功した作品だが、ポモの皆様の扱いが悪すぎると思う(´・ω・`)ショボーン
*1科学忍者隊ガッチャマン(1972年~1974年)の白鳥のジュンとキューティーハニー(1973年)は肉弾戦をしていたし、その後の機動戦士ガンダム(1979年)や続くロボット・アニメでも女性兵士は恒常的に出てくるので、明らかに勘違いである。
*2日本のサブカルチャー作品は民族主義や国粋主義には否定的なコスモポリタニズムなプロットのものが少なくなく、白人至上主義や反ユダヤ主義などの思想に親和的な米オルタナ右翼が見ていて不快感を感じないのか疑問がある。
*3東浩紀『動物化するポストモダン』はどこがまちがっているか――データベース消費編|しんかい37(山川賢一)|note
*4「ゲンロン8 ゲームの時代」の間違いの指摘 - Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト
*6ねたたま : ★90年代から現代までの萌え絵変化まとめ - ライブドアブログ
イラストにも流行がある!プロイラストレーターが意識する絵柄のトレンド | いちあっぷ
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