2018年5月14日月曜日

神原・佐々木・北弁護士による懲戒請求への報復的訴訟に関して

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「余命三年時事日記」と言うブロガーが、自身が気に入らない弁護士を対象に懲戒請求のテンプレートを用意し、それに載って数百人の人々が懲戒請求を行った事に対して、ターゲットとなった神原・佐々木・北弁護士が業務妨害を理由に訴訟を起こした/起こそうとしている。過去の弁護士の懲戒事例を見ると三名が懲戒に該当する可能性は無さそうだし、請願ではないのだから集団で行なう事ではないと思うのだが、原告側の勝利が自明なのか疑問の所があるので記しておきたい。

1. 余命三年時事日記の雛型の内容は違法と言えるのか?

懲戒請求が受け入れら無いものであるからと言って、即、業務妨害になり損害賠償が認められるとは限らない。懲戒請求のテンプレートの内容によっては、懲戒には当たらない一方で、業務妨害とも見なせない事もあるはずだ。

懲戒請求の理由として取れる範囲は『弁護士法や所属弁護士会・日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、その他職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったとき』*1と広い。法曹でないと懲戒にあたるかは自明ではない一方、法曹以外も懲戒請求ができる制度なので、ある程度のトンデモ請求は受忍すべきように思える。実際、懲戒請求に対して懲戒が出る比率は数%に過ぎないが、残りが片っ端から業務妨害として損害賠償請求の理由になっているとは聞かない。

ただし、最高裁は2007年4月24日の判決で、事実上・法律上の根拠を欠き、かつそれを知ってか普通の注意を払うことにより知りえたのに、あえて懲戒請求を行なうことを不法行為としており、東京地裁は2010年9月8日に単なる誹謗中傷になっている懲戒請求に関して、被告に賠償命令を下している*2

追記(2018/05/15 11:46):高島章弁護士が、Facebookで似たような見解を表明していた。虚偽に基づいているとは言えないので、不当懲戒(請求)ではあるものの、違法懲戒(請求)とは言えない可能性があるそうだ。なお、まだ事実関係を詳細に把握していないであろうから、高島氏の見解も後で動く可能性がある。

2. 懲戒請求者たちは共謀関係にあると見なせるのか?

余命三年時事日記の懲戒請求のテンプレートが違法であれば、組織的であろうがなかろうが違法なのであろうが、大量の懲戒請求が来ることによって営業妨害になったと言う話になっている。これがメディア向けの方便でなければ、余命三年時事日記のブログ主が主導した組織的な営業妨害行為であることを認定する必要があるであろう。1人で1000通の懲戒請求をすれば、悪戯電話的に営業妨害であろうが、1000人が独自の判断で1通づつの懲戒請求をした場合、単なる混雑である。しかし、この手のネット界隈の騒乱は指揮命令系統ははっきりしないし、懲戒請求者たちが行為がもたらす帰結をどの程度意識していたかが分からない。プロ野球のオールスターのファン投票にしろ、雑誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーにしろ、ネットの書き込みが起因して営業妨害になってしまった事例は幾つかあるが、裁判になって共謀関係が認められた事例は聞かない。

3. 弁護士会の対応が下手すぎるのではないか?

訴訟に関係あるのかが分からないが、弁護士会の懲戒請求フローそのものが上手くない。まず、懲戒請求者の本人確認をもう少し徹底し、懲戒請求者に法的リスクを突きつけて、意欲を挫くようなことをしていれば、今回のような騒動は起きなかったと思われる。また、懲戒請求で「本業に物理的な支障が出ている」のが本当であれば、内部の処理が下手すぎる。同じテンプレートの懲戒請求が届いた場合、弁護士会は一本化して綱紀委員会に調査させればよく、実際にそうしているはずだ。数百人から届いた懲戒請求をいちいち弁護士に聞き取り調査をして、いちいち議決して否決しているとも思えない。そもそも依頼者から弁護士業務を怠ったと言う苦情ならばともかく、SNSでの発言や政治声明が品位を欠くと言うようなものの審査は即断で済むのでは無いであろうか。

追記(2018/05/15 11:47):高島章弁護士が「全国の各地弁護士会は懲戒請求の異常性にかんがみ、通常の懲戒請求事案とは異なる簡略な手続きを取っている様子です(少なくとも新潟県弁護士会ー3000件くらいの懲戒請求がなされているようです。通常の懲戒請求で行われる綱紀委員会による「対象弁護士」への事情聴取も答弁書の提出も求められていない)」と指摘している。

4. 法制度への挑戦が出る可能性

法律論以外の問題、法制度への挑戦が出るかも知れない。例えば、数百人規模で2ちゃんねるの西村博之氏が取り続けている手法、つまり裁判所から支払いを命じられた損害賠償について、無視し続けるような事があった場合、神原・佐々木・北弁護士はさらに措置を講じることができるであろうか。給与所得者であれば相手方の勤務先を突き止めて、給与を差し押さえれば良いのであろうが、それも数が多いと大変そうである。また、被告が冒用されたと主張した場合、誰が他人を騙って懲戒処分を求めたのかは分からないので、神原・佐々木・北弁護士は刑事告発をすることになるのであろうが*3、それが数百人分となったら警察は捜査をしないかも知れない*4。すると、民事裁判は継続不能になりそうだ。「余命三年時事日記」のブログ主は、これでは逃げられないであろうが。

5. まとめ

「余命三年時事日記」のブログ主と、それに追随した人々が弁護士の懲戒請求制度を勘違いしたか悪用したと言うのはそうであろうが、今までに無い要素が幾つか入っているので、訴訟の結果はそう自明ではないように思える。そもそも数十万円規模の訴訟で揉めに揉める方向を選択する被告が多いのかは分からないが、よくある過去事例ではないと言う意味で、起きうる事象は色々ある。

地裁や高裁は弁護士よりの判決が出やすいと思うが、最高裁までいけば違うかも知れない。光市母子殺害事件弁護団懲戒請求事件の最高裁判決を見ると、懲戒請求を煽った橋下氏への賠償命令は受忍の範囲だと棄却されている。被告が懲戒請求をしたこと自体を否認して裁判が進まない可能性もありそうだ。原告が裁判で快勝しても被告側が裁判所命令を無視するようなことも起きうる。

*1日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:懲戒制度

*2弁護士に対する懲戒請求が違法であるとして損害賠償が認められた事例 - 竟成法律事務所(旧 法律事務所ミライト・パートナーズ)のブログ

*3佐々木弁護士が告発をすると言っていたのだが、弁護士会に懲戒請求をすると簡易書留で受理通知が送られてくるそうなので、冒用を主張すると身に覚えが無い通知を無視していたことが不自然になる。冒用されたと主張するのは、無理なように思える。

*4虚偽被害を申し立てて、虚偽が露呈すると、刑事罰を受ける可能性が出てきて状況が悪化するので、そこまで被告がするかは分からない。また警察の方も、弁護士が文句を言えば何百人分であろうとも捜査するかも知れない。

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