2018年4月24日火曜日

ネトウヨ主張を肯定してしまっている『「慰安婦」問題と未来への責任』

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2015年の日韓合意に関してはネット界隈の右派の人々よりも、左派の知識人の反発の方が大きかったように思える。『「慰安婦」問題と未来への責任』と言う論文集を出しているぐらいだ。出版後に韓国の文在寅大統領が2015年の日韓合意を破棄しない宣言をしたので、ちょっと間が抜けた感じがするのだが、寄稿者の一人のエミコヤマさんがよく薦めているので内容を軽くチェックしてみたのだが、ネトウヨの皆様が読んだらキャッキャと悪用しそうな脇の甘い文章も含まれている。

第3章金昌禄『「法的責任」の視点から見た二〇一五年「合意」』を読んでみたのだが、クマラスワミ報告・マクドゥーガル報告を無批判に引用して、日本に法的責任があるのが国際社会の法的常識になったと主張している。この根拠法を全く提示しない法的責任論が粗雑なのは言うまでもないが、未だにクマラスワミ報告*1・マクドゥーガル報告を拠り所にしていることに驚く。吉田証言に依存している箇所が代表的なところだが、他にも無根拠な風説を盛り込んだだけのもので、何かの法的責任を問える類のものでは全く無いからだ。

だが、稚拙な議論だけにネトウヨの皆様にとって金昌禄氏の議論は重宝する。朝鮮半島で所謂強制連行の証拠は発見されておらず、朝鮮半島での日本政府の法的責任を主張するには、所謂強制連行に依存しない論理を組み立てる必要がある。一部の左派言論人は、所謂強制連行の有無に関わらず日本政府に法的責任があり、ネトウヨの皆様の批判は的外れだと言ってきたわけだが、実際に未だに所謂強制連行があったことを前提に話をしている左派言論人がいたわけだ。

クマラスワミ報告・マクドゥーガル報告を無批判に拠り所にする限りは、そこに書かれた内容を踏襲していると見なされても仕方が無い。ネトウヨの皆様が所謂強制連行の有無に焦点をあてることが、図らずとも正当化されたわけだ。第6章の永井和『破綻しつつも、なお生き延びる「日本軍無実論」』などは、所謂強制連行が確認されない事を前提に、日本政府の法的責任を再構成しようと言う試みになっているのだが、脇が甘い仲間がいるので右派の批判を封じるには至らなかった。

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