2018年4月3日火曜日

ドイツ人女性の出生率上昇であれこれ議論する前に

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ネット界隈でドイツの出生率が1996年以降、過去最高だったことから、日本もドイツの社会制度を見習って出生率の向上を目指すべき論を唱えている人がいて、近年のドイツは出産意欲が高い移民が大量に入っており、これが制度に関係なく特殊出生率を引き上げていると言う反論が投げられている。ドイツの公的育児サポートはよくないと言われているので、ドイツを持ち上げてもと思うのだが、まずは国籍別の特殊出生率を確認してみよう。

"Fertility rate in Germany, by nationality of mother"と言う、そのまんまのグラフを描いてくれている人がいるので、それを参照する。ドイツ人女性の出生率も徐々に上がってはいるが、急上昇と言う感じではない。

グラフには無いが、2016年のドイツの出生率は1.59は急上昇しているのは報道されている通りであろう。しかし、2015年のドイツ国籍の女性の出生率は1.427に過ぎない。2016年はドイツ国籍の女性も前年比で出生数が3%増えたとあり*1、これをかけても1.470かそこらにしかならない。

2005年の「フランスとドイツの家庭生活調査」を見ると、ドイツの現金給付はそこそこ充実しているし、(同書には指摘が無いが)大学もだいたい無償である。しかし、子持ち女性の就業が困難であった。保育所が高額で不足しているだけではなく、「学校は半日制、給食はなく、子どもは昼前に下校するため、母親のフルタイム就業は事実上困難」とされている。

13年経過しているので制度改革が行なわれている可能性もあり、ざっと検索してみたのだが、そう大きい変化は無いようだ。2018年4月の記事でも「手頃な料金で子供を預かってくれる所を探すだけで半年かかった。公立保育所はたくさんの人が待機していて、民間の保育所からは席が空いたと連絡を受けたものの、月謝は1人900ユーロと言われた」と保育所事情の改善は広くは報じられていないようだ。学校半日制の方は、2012年6月に国際学力調査(PISA)の結果を受けて半日制から全日制へ移行する動きと現場の混乱が伝えられていたが、ドイツ全土への浸透率もそう高くなっていないと言う報告もある。

ドイツの教訓から、子持ち女性のワーキング・サポートが無ければ出生率は回復しないと言えるかも知れないが、ドイツに見習おうはちょっと無理がある。なお、日本の都道府県別データを見る限り、女性の就業率が出生率に寄与する程度は大きく無い*2

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