製造現場で品質管理を行なっている人には怒られそうだが、日本の実業分野で統計学の利用が早くから進んだところの一つが、生産管理の現場だ。戦後すぐにデミングがアメリカからやってきて、粗悪な日本製品の品質向上のために、日本科学技術連盟に品質管理の統計手法の重要性を吹き込んだことに由来する*1。今でももちろん有用なのだが、普及は昭和だ。
たまにマーケティングやトラヒック分析に統計学を使っている人々が、自分たちこそが統計学の実業利用の先駆者のような顔をしているのだが、統計学の産業利用自体は古くから行なわれている事を指摘したくなる。それにはメディアが戦前からやっている世論調査*2でも良いのだが、産業が小さすぎるきらいもあるので、品質管理の方が良いであろう。
こんな邪な目的のためにも、学部の統計学の入門テキストがちょっと重く感じる生産現場の人にも良い本が紹介されていた。「品質管理のための統計手法」は、品質管理で用いられる統計手法の全体像を概説した本で、平均や分散、ヒストグラムといった基本からはじめている本だ。
統計学と言うよりは工学の本に近い。実務的に、どの手法がどういう目的でどういう風に使われるのかを概説しており、大数の法則にも中心極限定理にも触れられていない。逆に、社会科学から見て異質になる工程能力指数、管理図、実験計画法*3、判別分析*4、タグチメソッドの説明が加えられている。実務的なので、分散分析や主成分分析を含む多変量解析も、初学者向けの薄い本の中で説明されている。
平成に入ってから在庫管理や顧客管理システムの導入やPOSレジの普及によって販売データの蓄積が進み、最近は広告媒体なども閲覧数やクリック数など成果データがとれやすくなったので、統計学の実用が拡大しているのではあろうが、昭和の時代でもそこそこ便利に使われていた事は、お調子者感が出るので忘れないようにしたい。昭和の統計手法で全て済むわけではないが*5、データの綺麗さもあって*6、着実な成果を挙げているのも昭和な利用のはずだ。
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