2012年2月8日水曜日

「統計学を拓いた異才たち」で触れる統計学史

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統計学は便利なツールではあるが、容易に理解できない部分もある。理由は幾つもあるだろうが、哲学的な側面がある一方で、それに時間をかけてレクチャーされる事が無いのも一つの理由だと思う。統計学も何かの必要性、もしくは考え方に応じて発展した来たわけだが、コラムの人物紹介を除けばテキストに書かれた説明は無味乾燥としている。「統計学を拓いた異才たち」は、そういう隙間を埋めてくれる本になっている。

本書は20世紀の統計学史と言った内容だが、歴史学者ではなく統計学者が記述しているためか、統計学上の重要な概念の周辺を良く押さえている。訳注を見る限りは、逆に歴史的事実に幾つかの誤りがあるようだが、統計学の背後を知る上では大きな問題では無いであろう。

読み進めていけば、母数、t分布、最尤法、検定などの実に多くの概念が、20世紀に生み出されて来たことがわかる。しかし、それらは一般に利用されているのに、無理解や誤解が付きまとってもいる。信頼区間を考えてみよう。これは、何回も推定を繰り返したとして、真のパラメーターが信頼区間におさまっている割合が、例えば95%である事を意味する。しかし、推定量の正しさの度合いが95%だとか、標本の95%がおさまる範囲だと解釈してしまう人は少なく無い(信頼区間って何?)。

概念上の誤解が発生しやすい理由として、私のような不勉強な人が多いせいもあるが、概念自体が難しい側面もある。信頼区間については、推計統計学の確立者ロナルド・フィッシャーも厳密には理解していなかったそうだし、考案者のネイマンもその解釈には苦労したようだ。しかし入門レベルのテキストにある区間推定の叙述は数行である。

区間推定は例外的な話ではなく、ピアソンはフィッシャーの研究全般を良く理解できなかったようだし、フィッシャーもネイマンの研究全般を良く理解できなかったようだ。フィッシャーは大変数学に優れた天才肌の人物だが、医療統計学の成果である喫煙の害も最後まで理解できなかったと言う逸話もある。もちろん彼らはテクニカルに理解ができないわけではなく、哲学的に理解できなかったようだ。テクニカルにも間に合っていない凡人が、テキストのあっさりした説明で、哲学的な理解が間に合うはずがない。本質的に統計学は難しいもののようだ。

「統計学を拓いた異才たち」で紹介されるストーリーは29章にわたり、教科書で紹介されるトピックに歴史的な肉付けをしてくれて、その理解を深めることに役立つと思う。ただし、統計用語の解説をしてくれるわけではないので、少なくとも入門レベルの統計学の知識が無いと何が書かれているかを理解するのも難しいかも知れない。娯楽本の部類だと思うし数式などは出てこないが、読む人を選ぶ所が少なく無い。

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