近年は自殺が過労死と認定されるケースも増えており、昨日も大手居酒屋チェーン「和民」で働いていた26歳の女性社員の自殺が、過労死だと認定された(北海道新聞)。それに関した創業者の渡邉美樹のコメントに、不満の声があがっている(「究極の偽善者 ワタミの渡邊美樹社長 女性新入社員過労自殺の労災認定にも全く反省せず暴言ツイート」「和民社員、入社2か月後に自殺 労災認定→社長のTwitter発言、非難を浴びる」)。
1. 渡邉美樹氏の言い方が悪いのか?
問題のTweetは以下だが、労務管理が出来ていたと言う主張が批判されているようだ。
労災認定の件、大変残念です。四年前のこと 昨日のことのように覚えています。彼女の精神的、肉体的負担を仲間皆で減らそうとしていました。労務管理 できていなかったとの認識は、ありません。ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています。会社の存在目的の第一は、社員の幸せだからです
— わたなべ美樹さん (@watanabe_miki) 2月 21, 2012
言い方が悪いという指摘(やまもといちろうBLOG)もあるが、改善措置を取る気が無いように思えるので批判を受けている。以下のようなTweetもあるからだ。
バングラデシュ 朝、五時半に、イスラムの祈りが、響き渡っています。たくさんのご指摘に、感謝します。どこまでも、誠実に、大切な社員が亡くなった事実と向き合っていきます。バングラデシュで学校をつくります。そのことは、亡くなった彼女も期待してくれていると信じています。
— わたなべ美樹さん (@watanabe_miki) 2月 22, 2012
4年前の自殺者が渡邉美樹氏の海外援助を応援していると主張して話を逸らす言動に、反感を感じざるを得ないのは確かだ。「彼女が期待することは働きやすいワタミの環境を作ること」と批判が出ている。
追記(2012/02/23 00:00):2012年1月20日の『「14年連続自殺者3万人」の国、日本』と言うタイトルの渡邉氏のブログでは、ワタミの自殺事件の事については触れられていないが、この事も批判を呼んでいるようだ。
追記(2012/02/23 05:00):ワタミ(株)からは「報道されている勤務状況について当社の認識と異なっておりますので、今回の決定は遺憾」とプレスリリースが出ており、渡邉美樹氏は長時間の残業自体がそもそも無かったと主張する可能性がある。
追記(2012/02/23 18:30):プレスリリースの内容に関わらず、自殺した従業員の勤務状況に関して「会社としての公式な見解をまとめている段階」であるそうだ(ロケットニュース24(β))。同社は神奈川労働者災害補償保険審査官に状況を説明しているはずで、少なくとも報道を否定しているのだから、公式見解は既にあるはずだ。内部で法的対応方針を協議しているのかも知れない。
2. シフト制での違法労働は組織の責任
月140時間超の残業は月労働日数が22日だとして、毎日6~7時間。この程度の残業ならば経験があると言う人は少なく無いようだが、シフト制なので労働者の裁量の余地が低いであろうこと、立ち仕事である事を考慮すると、経営者が改善措置を怠ったと見なされても仕方が無い。また「朝3時に閉店後も電車が動いていないため帰宅できず」「休日も午前7時からの早朝研修会やボランティア活動、リポート執筆が課された」と報道があり、これが事実ならば実質の残業時間はもっと多い事になる(神奈川労連、asahi.com)。
過去に同社でアルバイトをしていた人物の情報によると、年末の繁忙期は16時~翌6時の勤務(14時間拘束)で、社員は休憩時間無し、アルバイトは食事休憩30分となっているそうだ。さらに人件費管理はエリア・マネージャーが厳しく管理するので、店長らの判断で人員を補充できないらしい。この情報が正しければ、組織として違法状態が維持されている。
3. 過去のワタミフードサービスの法令違反
ワタミフードサービスは、2008年に残業時間の切捨て措置の問題や、それを告発したアルバイト社員の報復解雇の問題を引き起こしており、労働基準法が現実的であるかは別として、世間一般には労働基準法を尊重しない会社だと思われている。また、渡邉氏の「鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる」と言う発言は、その労務管理者としての姿勢を表す伝説になっているようだ(【労災認定】和民のブラック企業伝説 - NAVER まとめ)。
追記(2012/02/23 01:03):マクドナルドで労働時間30分未満切り捨て処理が問題になったのは2005年であり、3年も遅れて事件になるワタミの危機管理能力は、渡邉美樹氏の政治家としての資質を疑うべき事例となる。
4. コンプライアンスの向上を宣言できないワタミ
実際問題、長時間残業、自殺者、失踪者などの問題が発生しなかった大企業は無いはずだ。残業時間の切捨て問題も、多くの企業が抱えていたと考えられる。上場前のベンチャー企業の社長が、従業員の長時間残業を自慢しているケースもあるのだが、実際にそれが法的リスクだと指摘する人も少ない。しかし和民の創業者・渡邉美樹氏が批判されるのは何故か?
一つは、渡邉美樹氏の政治的な野心だ。氏は都知事選挙に立候補した経歴があり、公僕たる資格があるのか関心が持たれることはやむを得ない。一つは、コンプライアンスの向上を宣言しない事だ。特に後者が、人々の強い反感を買っている。
通例、公権力に法令違反を指摘された企業は、反省を表明し改善を宣言する。税金の深刻漏れなどの場合でも、見解の相違と弁解した上で、国税庁の指導に従うと宣言するものだ。しかし、渡邉美樹氏はそうしない。コンプライアンスの向上宣言は、過去の人事管理の過失を認めるので、渡邉美樹氏の自尊心を傷つけることにでもなるのであろうか。
5. 企業人としてでは無く、公人としての問題
労働基準法の違反は、罰金だけでは無く、場合によっては懲役も科せられる。直接の違反者である管理職だけではなく、彼らへの指導を怠った場合は経営責任者も同罪だ。会社への忠誠心の低いアルバイト社員が多いワタミでは違反は発覚しやすいであろうし、企業経営者としての渡邉美樹氏は、法令遵守を宣言しようとしまいが規制される。
問題は、渡邉美樹氏の政治的野心だ。氏は2011年4月に東京都知事選で落選した後に、2011年6月に岩手県陸前高田市の参与に就任している。その時に、同市の水産物を全国約700店舗の和民で仕入れることを宣言している。これは経済的便益を図る換りに名誉職を勝ち取ったと解釈されても仕方が無い。
発覚した労働管理問題に過失を認めない態度、部下に無理を強いる事が正当だと主張するインタビュー、自殺した従業員が自身の慈善活動の賛同者だと主張する発言、陸前高田市の公的ポストに就いた後に経済的便益を図るとした宣言。渡邉美樹氏がどういう人物かは論評しないが、公人としての常識が欠けている事は自明であろう。起業家としての名声に反して東京都知事選で泡沫候補でしか無かったのは、対抗馬が強かった事だけが理由ではない事を、そろそろ渡邉美樹氏も自覚するべきだ。
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