2017年11月25日土曜日

未来のワクチンは伝染していく

このエントリーをはてなブックマークに追加
Pocket

ワクチン接種は感染症に対する有効な対策だ。天然痘は極めて死亡率の高い病気であったが、18世紀にエドワード・ジェンナーが牛痘接種法による天然痘ワクチンを発明し、1977年を最後に根絶された。地球上から根絶に至らなくても、風疹、ジフテリア、破傷風、百日咳、麻疹などの感染者数を劇的に抑えている事は間違いなく、広く接種されているワクチンの効能を疑う必要は無い。

しかし、宗教的、心情的、そして政府予算の関係でワクチン接種が十分に行なえない状況も依然としてある。また、人間に感染する前に動物を媒介する病原菌やウイルスは多くあるが、人間や飼育動物と異なり、野生動物にワクチン接種を行なうのはほぼ不可能だ。北米では狂犬病の野生動物が民家の周辺を歩いて騒ぎになることもあるし、ハンタウイルスなどネズミが媒介する病気も多くある。

科学者は、伝染性ワクチンでこれらの困難への対応を考えている*1。色々な方法があるが、弱毒性の病原菌やウイルスを広めることで、強毒性の病原菌やウイルスが生じる前に免疫をつけさせる方法は、既に用いられている。米国ではポリオ・ワクチンは不活性のものを注射するが、WHOは経口投与の生ワクチンを利用している。生ワクチンではポリオウイルスは死んでおらず伝染力を有しているので、投与した人間以外にもワクチンの効能が現れることがあり、WHOはこの効果を狙って生ワクチンを利用している。ただし、弱毒性とは言え先祖返りをして強毒性に戻る可能性はあり、リスクが皆無とも言えない。実際に、強毒性に戻った株もある。また、現状の生ワクチンの伝染力は低いが、それを改善すると強毒性に突然変異するリスクは高まる。一週間しか伝染しない生ワクチンが考えられているようだ。

ほとんど無害なウイルスを遺伝子改造し、有害な病原の特徴を持つようにするアイディアもある。免疫システムは不活性化した菌やウイルスだけではなく、近縁種であっても狙いの菌やウイルスへの抗体を持つことができる。ほとんどの人間が感染する一方で不顕感染で終わるヘルペスウイルスの一種、サイトメガロウイルス(CMV)のようなウイルスを改造すれば、先祖がえりを起こしてもワクチンとして機能しなくなるだけなので、より安全な伝染性ワクチンとして用いる事ができる。ただし、遺伝子改造したウイルスと在来種が競合することになるので、広く伝染していくかは分からないようだ。

免疫システムに学習してもらうのではなく、ウイルスの動きを阻害するウイルスを遺伝子改造して作り出し、定期的に飲む経口薬などの代わりに使うアイディアもある(TIPs)。エイズを引き起こすHIVを改造したウイルスを接種して、HIVが自己複製のために人間の細胞に作らせる特定のたんぱく質を盗ませることにより、HIVの活動を抑える療法が研究されている。HIVには抗レトロウイルス薬しか効かないが、値段も安くないし、飲み忘れることもあるが、この療法であれば問題を解決できる。万一、HIVが死滅すれば治療用ウイルスも死滅するし、先祖がえりを起こしても元のHIVに戻るだけで、患者が新たな病気にかかる恐れはない。伝染力があるのか謎なのだが、HIVが誰かに感染するときに、この治療用ウイルスも感染していくのであろう。

0 コメント:

コメントを投稿