2014年4月5日土曜日

大学教員が求める基礎力がつく『数学は言葉』

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マクロ経済学者の荒戸寛樹氏が新入生にお勧めしていた『数学は言葉―math stories』を拝読してみた。英語のサブタイトルが謎*1なのだが、社会科学系の大学教員が新入生に求める基礎力がつく本になっていると思う。こう言うのが分かってい無い子が多いよな~と思う事が、色々と説明されているからだ。しっかりと読み込めば、命題や定理といった数学の基本的な用語や、論理式や証明手順を理解する事ができる。高校数学の復習とも、その先を見据えた準備とも取れるが、学ぶことは多い。

内容は易しい、そして難しい。矛盾した事を言っていると思うだろうが、x=4, y=6の「,」の意味まで説明されているから懇切丁寧で易しいと思う反面、論理式の応用例として「宇宙人の言語学」と呼ばれて恐れられているε-δ論法*2が出て来て、論理式で連続と一様連続の定義の違いを説明していたりする。一つ一つ読み込んでいけば無理はないはずだが、一般に難しいと思われている所に到達している。

ここまでしっかりと論理式を教える必要があるのかは、疑問に思うかも知れない。文系ではガチ理論の人々でも無い限り、ある最大値mが存在すると言うのを、∃m(∀n(n<m))と書く事は少ないからだ。しかし∀x ¬P(x) ⇔ ¬(∃x P(x))のような論理式の展開が身についていれば、一定の作文能力を得ることができる。長めの文章を通して論理の一貫性を維持できない学生はそこそこいる。

以上は第4章までの内容だ。第5章で自然言語の曖昧さを説明しているのだが、確かに数学で論理を展開すれば曖昧さを排除することができる。第6章から第8章までが、曖昧さを排除した論理展開、つまり証明について丁寧に実例豊富に説明している。もちろん背理法と数学的帰納法も説明されているし、フェルマーの小定理と大定理の両方を題材として使っている格好良さもある。ただし、コンビネーション記号の説明がどこかであったかは定かでない。

大学でテクニカルに必要とされる数学の本ではない。また、高校までの数学と内容がかぶる部分が大半であろう。だから大学の新入生が必ず読むべきと言う本ではないのだが、本書に書いてある事をキッチリと理解している学生しかいなければ、大学教員は物凄く仕事が楽になるのも間違いないと思う。論理がぶっ飛んでいる人、そこそこいますからね。大学教員に日本語が書けないと嘆かれる学生になりたくない新入生には、ぜひこの本を読んで欲しい。

*1シリーズ名だそうです。

*2「物理数学の直観的方法」でそう描写されている(関連記事:現代思想としての「物理数学の直観的方法」)。

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