2012年1月4日水曜日

現代思想としての「物理数学の直観的方法」

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物理数学の直観的方法」と言う本がある。初版は1987年10月5日に出されているが、普及版が2011年9月20日に出されていたので、紹介してみたい。

著者は現在は研究者ではないようだが、理論物理を専攻していた人物で、物理学者などを含めて多くの人が本書を高く評価している。社会科学、特に経済学は物理学の数学部分を模範としており、文系が読んでも得るものが多いはずだ。

1. 文系にも関連する内容

本書で取り上げている分野は幅広いが、文系にも関係があるものが多い。第1章線積分、面積分、全微分、第2章テーラー展開、第3章行列式と固有値、第6章のε-δ論法と位相空間は多くの文系学生が学ぶものだ。他の章、第7章フーリエ級数・フーリエ変換はBS式の関係でファイナンス理論の人には親しみがあるであろうし、第10章解析力学は経済学のマクロ動学理論の人には必須だ。ただし厳密な説明や練習問題は一切無いので、テキストを読み込んだ上に理解を深める補助教材となっている。入試で数学を選択しなかった文系の学部1年生が「物理数学の直感的方法」を読むと、全く持って意味が分からないであろう。

2. 読み物として楽しい

教材と言うよりは娯楽書で、二つの意味で読み物として楽しいものになっている。まず、公理から定理を導出している無味乾燥な世界に直感的な説明をしている事そのものが面白い。次に、馴れ親しんでいる定理が論じられているのが、マニアックなアニメ番組を見るような感じで面白い。トップを狙えに散りばめられた相対論用語、例えばシュヴァルツシルト半径を聞くような楽しさがある。もしくは、卒業後に仲のよくなかった同窓生と意気投合する感覚と近いのかも知れない。

3. 率直な文章に共感を感じる

率直な文章が共感を呼ぶ。例えば、ε-δ論法の説明が正直すぎる。「宇宙人の言語学」「知らなくても後で困ることはそれほどない」「大学初年でこれをやらせる理由については、鉄は熱いうちに打てと言うではないか、というのであるが、なるほど粉々に打ち砕かれてしまっている」と説明されているが、うんうんと頷ける人は多いのでは無いであろうか。序文部分でも「二流の経済学者があやふやなモデルを数学で飾り立ててかくれみのにするようになると、もういけない」とあり、世間で社会科学がどう思われているかが良く分かる。数学と言う現代の共通言語と向き合わざるをえない凡人のためのサブカルチャー的な何かが、散りばめられている。

4. 巻末にある現代思想に関する議論

物理数学の直感的理解に正面から取り組んでいる方法をサブカルチャー的な何かと表現すると、違和感を感じるかも知れない。出所が明記されていない数学史的な記述が気になるものの、内容は真面目なものだ。しかし、最後に付記された「やや長めの後書」で、ニュートン物理学における難問であった三体問題の歴史的な展開と、それが長期間難問として留まった理由と、文明社会に与えた影響を議論している。そこでは著者が数学の直観的理解を強調する理由が、数学史から説明されている。現代思想の専門家から見れば厳密な展開ではないのだと思うけれども、現代人が共感がもてる現代思想とはこういう物では無いであろうか。

5. 凡人のための「物理数学の直感的方法」

応用分野における数学は、有用性・普遍性は間違いないが凡人には難解な部分があり、高度に完成されている一方で天才にはまだ未開の領域が残されている(本書で触れられている三体問題も、2010年末に弘前大学大学院理工学研究科の山田慧生氏と指導教官の浅田秀樹准教授が、一般相対性理論における三体問題の解を導出し、学術雑誌に研究成果を掲載している)。言い直せば数学は理路整然とした世界なのに、それを取り巻く状況は複雑だ。端的に言えば凡人の脳がついていけないと言う状況に、本書は直感的方法による問題解決を提示している。

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