2012年1月25日水曜日

日銀がリフレーション政策を嫌がる理由

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リフレーション政策に期待する人々から見ると、なぜ日銀がリフレ政策を行わないかは疑問らしい。日銀総裁の知性を批判する人々さえ見かけなくも無い。

しかし、リフレ政策を推進する高橋洋一嘉悦大学教授や飯田泰之駒澤大学准教授は、リフレ政策に対して、日本銀行が何を考えているかを説明する事は無いようだ。逆に池田信夫らリフレ政策に反対する経済評論家が日銀の関心事項を詳細に説明しているかと言うと、そうでもない。

日銀が公式にその理由を発表する事が無いからではあるが、議論の整理のために簡単に考察してみよう。誤解が無いように確認しておくが、インフレ・ターゲティングではなくて、リフレーション政策をどう考えているかだ。

1. 流動性の罠にあると量的緩和に効果は無い

効果が無いと見ているのは確かだ。日銀、つまり白川総裁は人口高齢化による低成長が期待インフレ率を押し下げており、流動性の罠にはまっていると考えている。過去の講演「グローバリゼーションと人口高齢化:日本の課題」「デレバレッジと経済成長」を見ても、総裁就任前の発言(「総裁、私は量的緩和を拡大すべきではないと思います。効果が見込めません」朝日新聞グローブ (GLOBE))からも、量的緩和に関しては懐疑的な立場のようだ。実際に2000年から2006年までの日本の量的緩和期ではCPIは低いまま推移したし、米国のリーマンショック後のQE1、QE2でもCPIは低いままとなっている。

2. 量的緩和がハイパーインフレーションを生むケースもある

量的緩和にはリスクがあって、よくハイパーインフレーションを生むと批判されている。日銀がこの可能性を明言しているわけではないが、恐らく意識はしている。

量的緩和と言うのは、結局は日銀が金融資産を購入し、現金を市中にばら撒くと言う事だ。購入する金融資産は国債でも、株式投信でも不動産投信でも構わない。購入すると、日銀のバランス・シート(B/S)には資産として金融資産が、負債として日銀券(つまりお札)が計上される。例えば、インフレ率0%・金利2%で100兆円の国債を購入したとすると、割引率を無視すれば、102兆円の資産(国債)と、100兆円の負債(日銀券)が計上される。

ここでインフレ率が思ったよりも高くなり、10%になったとしよう。日銀はインフレを止めるために、市中にある日銀券を回収する必要がある。日銀券を回収するには、国債を売るしかない。しかし、インフレ率が上がっているため、金利が高くなっており、国債には91兆円の価値しかない(見合い資産不足)。日銀は9兆円の日銀券を回収できなくなり、インフレーションが止まらなくなる(翁・小田(2000)P.23 4.3.2節)。場合によっては日銀が破綻する事もありえる。

追記(2012/01/25 19:00):見合い資産不足とハイパーインフレーションの関係が不明確に思えるかも知れない。翁・小田(2000)では、膨大な日銀券が市中に蓄えられているときにインフレで日銀券の回収能力が低下すると、それが見合い資産不足から日銀券への信用不安を呼び、さらにインフレを加速するプロセスを示唆している。

追記(2012/01/26 04:00):基準金利を引き上げて市中の日銀券を回収すればよいと思うかも知れないが、その効果は日銀貸出の残高に依存する。日銀が、ハイパーインフレーション時には既に高金利で日銀貸出はゼロであると見なしていても不思議は無い。

追記(2012/01/29 21:40):ボンド・コンバージョンで日銀のB/Sの問題は解決できると言う指摘があったが、それで日銀が市中の日銀券を回収すると政府の財政負担が増加する。つまりボンド・コンバージョンを導入しても、インフレ時は政府が緊縮財政を取らないといけない。

3. 日本銀行にもB/Sがある

リフレ政策を推進している人々は、(1)の量的緩和の効果の有無での議論に集中しており、(2)の量的緩和がハイパーインフレーションを生むケースについては言及することが少ない。特に、日本銀行にもB/Sがあって日本銀行は見合い資産不足を心配している事を、無視しているように思える。もっともリフレ政策批判者も、この点を積極的に指摘しているようには思えないが。

ただし日本銀行がグリップできないようなハイパーインフレーションになりかけたら、増税と政府支出の削減で需要を抑制すればいいので、政府が機能しているのであれば大した問題ではない。もしかしたら日銀は、政治機能が麻痺しているように思っているので、リフレーション政策を嫌がっているのかも知れないが。確かに2007年7月に参議院で民主党が過半数をとって日銀人事が混乱し、その結果として白川方明氏が日本銀行総裁に就任したことは、疑いの無い事実だ。

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