2013年12月1日日曜日

中国風の防空識別圏に見る人治国家と法治国家の本気の見せ方の違い

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中国風の防空識別圏の設定に関して、周辺国のみならず国際社会から批判と困惑が出ている。

防空識別圏は各国が勝手に設定するものだが、フライトプランを事前提示したり、無線応答に答える義務を課すのは、防空識別圏を通って領空に侵入するケースに限られ、かつ防空識別圏上の航空機を撃墜予告をするケースは無かった。

中国風の防空識別圏はこれら領空に準じる扱いを公海上で試みるもので、海運自由の原則に反する。何のために、不法な横暴と見なされうるような行動に打って出たのであろうか?

日本や米国が設定している防空識別圏が何か理解していなかった気もするのだが、もう少し良心的に解釈すると日米同盟に揺さぶりをかけたのだと思う。本気だとアピールしているとも言えるであろう。しかし、迅速な米国の中国風の防空識別圏を無視する態度*1に動揺している。昨年成立した国防権限法案*2で、米国では政府も議会も尖閣諸島を日米安全保障条約の第5条の適用範囲だと見なしていることの意味が、デュー・プロセスが重要ではない人治国家の上層部の限界なのか、よく分かってい無いようだ。

米国憲法によると、米大統領は軍事行動を起こした場合は48時間以内に議会に通告し、議会の承認を得る必要がある。このとき、議会承認が得られなかった場合は60日以内に軍事行動を停止しなければならない。オバマ大統領がシリアへの軍事介入前に議会承認を得ようとして話題になっていたが、あれは政治的な継戦能力を考えればむしろ当然と言うことになる。

国防権限法案で尖閣諸島が安保条約の範囲に入ると議会がコミットしていると言うことは、日中紛争になったときにホワイトハウスが軍事行動をためらう理由が無いと言う事だ。むしろ、米大統領も法律に縛られるので、日本を軍事的支援する以外の政治的選択肢が無くなったとも言える。これ以上の本気宣言はない。事実上、これで人民解放軍が世界最大の米空軍基地の目の前にある尖閣諸島を軍事的に占拠できる可能性は無くなった。

米側の態度は決まっていたのだが、それを理解できなかった中国がチャレンジを行い、面子を失いつつあると言うのが現時点の状況だ。日本にも昨年の国防権限法案の意味を理解できていない論者は多いので、人治国家の中国指導者層がその重要性に気付かなかったのはやむを得ないのかも知れないが、政権求心力が落ちる可能性もある。問題はこれで中国側が理解できたかと言う点だが、中国の外務官僚はともかく、上層部はそうではないかも知れない。

口では棚上げを求めつつ、全く先送りにする気が無いように思える中国共産党の次の一手が気がかりだ。

*111月26日に米戦略爆撃機B52が2機、中国風の防空識別圏に事前通告なしに侵入している(Reuters)。

*2この国防権限法案もまた、人治国家の戦術が法治国家の意思決定に影響を与えられなかった事例になると思う。

昨年、恐らく中国政府の意図を受けて、中国新聞社がニューヨーク・タイムズ誌、ワシントン・ポスト誌、ロサンゼルス・タイムズ誌の広告に、尖閣諸島が中国に帰属すると言う主張を展開していた(JBPressサーチナ)。ロビー活動への努力は相当なものがあり、ある程度の決定権の無い同調者を集めることには成功していると思う。しかし、1970年以前に尖閣諸島は沖縄の一部だと中国は認めていたので、禁反言の法理(estoppel)からその主張は国際法的に意味を失う(NY Times)ため、決定権のある同調者を集めることができなかったのであろう。

なお直近のThe Economistの記事では、尖閣諸島は日本が19世紀後半に領土に組み入れ、1970年代から中国も領有権を主張していると紹介しており、中国側の主張は紹介されていないから、国際世論の形成に成功しているとも言えないようだ。

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