2013年12月26日木曜日

牛丼やファストフードのチェーンは、じつは日本型の福祉?

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社会学者の古市憲寿氏が、対談で外食費が安いのが日本型福祉だと言った*1ことについて、困惑が広がっている。どうも古市氏は福祉と経済厚生の改善の見分けをつけていない。

公的な支援を受けても、競争的市場の結果で物価が安くても、人々の生活は良くなる。つまり経済厚生が改善するわけだ。しかし、福祉と言う場合は私的便益の結果ではなく、公的配慮によってもたらされたものだと考えることが多い*2。ゆえに社会通念上は、営利企業の行動を福祉とは言わないようだ。

ただし、古市氏が完全に突拍子もないとは言えないようだ。社会政策学者イエスタ・エスピン=アンデルセンの福祉レジーム論では、福祉を生産・供給する主体は政府だけではなく、市場や地域や家族も含まれることになっている。日本型福祉を評価する上で、物価水準も考慮すべきと言うのは理解できる。

もっとも福祉レジーム論を土台にしても、古市氏の議論には違和感が残る。労働規制が強く最低賃金が高いことが、北欧の物価を引きあげていると言えるのであろうか。北欧では法定最低賃金は無く、産業別労使交渉で締結される最低賃金が労働市場における最低賃金になるし、古市氏が念頭に置いているスウェーデンを例に取ると大半の労働者は最低賃金よりも高い水準の賃金を受け取っている(西村(2011))。2010年の生産年齢人口の就業率は72.7%と日本の70.1%と比較しても高く(JILPT)、雇用規制によって労働供給に問題がおきているように思えない。

古市氏の問題をまとめると、(1)社会通念と乖離した用語の使い方をしてしまったこと、(2)北欧の雇用規制と外食費と言うサービス財の価格を安易に結びつけたことになると思う。(1)については議論が過熱しているが、(2)については弾幕が薄いようだ。

追記(2013/12/26 17:20):北欧では公的部門での直接雇用が失業者対策として行われており、それが低熟練のサービス労働者市場を逼迫し、外食費を引きあげている可能性が示唆された。しかし、確認した限りではスウェーデンは90年代はともかく、2007年の段階では直接雇用を社会保障政策としてはほとんど採用していないようだ(日本銀行調査統計局2010年7月図表12)。

*1「ネット新時代は銀行不要」の現実味【2】』と言う対談記事の以下の部分になる。

なるほど、すき家はいいですよね。牛丼やファストフードのチェーンは、じつは日本型の福祉の1つだと思います。北欧は高い税金を払って学費無料や低料金の医療を実現しています。ただ、労働規制が強く最低賃金が高いから、中華のランチを2人で食べて1万円くらいかかっちゃう。一方、日本は北欧型の福祉社会ではないけれど、すごく安いランチや洋服があって、あまりお金をかけずに暮らしていけます。つまり日本では企業がサービスという形で福祉を実現しているともいえる。

*2辞書で福祉をひくと「公的配慮によって社会の成員が等しく受けることのできる安定した生活環境」とあるので、物価下落により経済厚生が改善することを福祉と呼ぶと世間の混乱を招く。

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