昨日のエントリーに対して、人事コンサルタントの城繁幸氏から反論が来たのだが、どう間違っていたのか理解できていないようなので、補足説明してみたい。要は城氏が頼る2008年のOECDの指標は古いデータで、それは後日改訂されて無くなっている。また、2013年のデータのグラフで世界で一番難しくはないと否定されているのに、2008年のデータに固執するのは問題であろう。政策的な議論であれば、新しい方を見るべきだ。
1. 城氏が参照するのは廃棄されたデータ
ようやく城氏は「2008年度版データ」だとソースを明らかにした。しかし城氏が見ている2008年のデータは、後日改訂されてREG8の値が6から2へ引き下げられている*1。これにより城氏が重視する「解雇の難しさ(Difficulty of dismissal)」は、34カ国中24番目に修正された。しかし城繁幸氏はOECDに廃棄された数字を根拠に、国公一般氏が嘘をついたと主張している。
2. 2013年のグラフは2008年のデータで否定できない
城氏は「08年度版と13年度版をごっちゃにしているのでおかしな結論になっている」と反論するが、国公一般氏が提示した最新のグラフは2013年のもの*2で、城繁幸氏が古い2008年のデータで主張するのは不適切だ。最新のデータで「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」と言えるわけではない。
3. 日本語/論理展開として問題がある部分
本ブログに関して「著者が元データを読み込んでいない」と批判している部分は、その是非をこのエントリーと昨日のエントリーを見て判断してもらいたい。しかし、城氏の以下の反論は日本語、もしくは論理展開が意味不明になっているので指摘しておこう。
1. OECDのグラフは城繁幸氏の主張を否定
2. グラフのタイトルは「個別解雇と集団解雇に対する常勤者保護」
本記事前半部で述べたとおり、単純に「ファイル名」だけ見て判断してしまっている。
「ファイル名」が意味不明なのだが、グラフのタイトルと言ういみであろうか? ─ 「指標の内訳を見ていくと全て解雇に関わる項目」と指摘しておいたのだが、見落としたらしい。解雇手続き(REG1~2)、告知期間(REG3A~C)、解雇手当(REG4A~C)、整理解雇要件(CD1~4)も正社員解雇と関係ないとは言えない。
城氏が「実際それに従って解雇なんて出来ないわけだから、1番や2番(REG1~REG4C)がどんなにゆるゆるでも何の意味もない」と主張しているのは認識しているが、これはダブルスタンダードになっていて試用期間(REG6)には、「関係ないどころか非常に重要な指標」と主張されている。しかし、城氏は雇用契約が成立している既存の正社員の解雇が困難と主張しているわけで、試用期間(REG6)の長短はそれに関係なく、それを含んだ「解雇の難しさ」を重視するのは論理的整合性を欠く議論に思える。
城氏の議論では正当/不当解雇の定義(REG5)だけを見ればいいわけで、日本のそれは2であり、12番目の規制の緩さとなっている。これが城氏の持論をサポートしないから、試用期間(REG6)や不当解雇の申し立ての最大期間(REG9)も入った解雇の困難性(Difficulty of dismissal)にこだわるのであろう。これは一種のまやかしに思える。OECDが正しいとは限らないが、城氏はOECDの指標をもとに「日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しい」と主張するのは諦めるべきだ。
最後に細かい所を指摘しておこう。「解雇ルールを明文化すれば、試用期間と異議申し立て期間の数値は大きく低下するのは間違いない」は、どういう解雇ルールを作るかに依存するから論理的に飛躍している。「中小や非正規雇用のクビ切りは割と自由」としているが、日本の解雇ルールには企業規模や雇用形態に対する条件は無いので誤解を招く表現だ*3。大企業でも日本IBMはガンガンとクビを切っていると報道されている*4のだが、城氏の議論ではこういう事例も無視されている。
*1最新ページにEPL-timeseries.xlsxがリンクされており、Updated%20time%20series.xlsは古いバージョンとなっている。
*2タイトルから2013年のデータだと分かる。
OECDの正規労働者の解雇規制ランキングのグラフです。 日本の正規労働者の解雇規制は、弱い方から10番目です。 http://t.co/spcj5dt1Cl pic.twitter.com/8GrkM6AOmH
— 国公一般 (@kokkoippan) 2013, 12月 21
*3中小企業は継続雇用のための異動先が多くは無く、また待遇から従業員も仕事に未練が無いので、解雇を実行しやすいのだと思われる。なお非正規の解雇については「パートや契約社員はいつでも簡単にクビにできるという勘違い」を参照。非正規雇用の雇い止めに関しても、1974年の東芝柳町工場事件の最高裁判決などの判例法理では、有期労働契約でも反復更新により実質的に無期になっていた場合や、雇用継続につき合理的期待が認められる場合には、有期契約でも無期契約と同様に扱うことになっている。
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