経済評論家の池田信夫氏がジャーナリストの江川紹子氏にあてて、簡単なゲーム理論のモデルを示しつつ、『日本は憲法を改正して、普通の「戦争のできる国」になることが望ましい』と主張している。
色々と問題が多いので、江川氏がこれが経済学的な考え方だと誤解しないように、おかしな所を指摘してみたい。池田氏のモデルでは、よく考えると憲法九条があろうが無かろうが、状況は変わらない。
1. 戦争を仕掛けることが出来ても平和になる
池田氏の示した図が、池田氏の議論と乖離しているので書き直しておこう。利得が適当なのは、一方的攻撃(+2)>平和(±0)>反撃(-1)>無抵抗(-2)と言う状態を想定しているという事で理解できなくもないのだが、中国が平和的だったのに日本が攻撃した場合に中国が何もしないのはおかしい。書き直すとこうなる。
中国がI11で攻撃した場合、日本は反撃するのでAになる。中国が平和な場合、日本はI22で攻撃か平和かの選択を迫られるが、攻撃した場合は反撃を受けてEになり、それだと平和でDの方がよいので、日本は平和な状態を維持する。中国もAよりDの方がマシなので、平和を維持することになる。長期的関係云々と言うのはこう言う事であろう。
追記(2013/12/17 08:30):池田信夫氏は平和になるような戦略は『互いに信頼できる場合しか使えない』としているのだが、改訂した図の場合はそんな事はない。また、池田氏は互恵関係ではなく、反撃の必要性を主張しているので、上図の方がその主張をサポートするであろう。
2. 戦争を仕掛けることが出来なくても平和になる
日本国憲法の現在の解釈からすると自衛隊は合憲なので、日本は戦争を仕掛けることはできないが、反撃することはできる。これにあわせて展開形ゲームを書き直そう。中国が平和ならば、日本は自動的に平和なので、手番I22、I31が無くなる。
中国は攻撃されると反撃されるので、やはり平和を選択する。ナッシュ非協力ゲームに従って国際政治が動いているのかそもそも謎なのだが、日本国憲法を改正してもしなくても、この単純なナッシュ均衡戦争ゲームの結論は変わらない。
追記(2013/12/17 08:30):池田氏のエントリーをよく見直したら『「自衛戦争は放棄していない」という(現在の政府の)解釈』は憲法違反だと主張している。防衛能力が無いと攻撃されると言うゲーム理論を使うまでもない主張であったようだ。
3. 軍拡競争を回避したい意志は示せるかも知れない
さて、変わらないなら憲法改正をしても同じであろうか? ─ 軍拡競争が拡大する可能性がある。リチャードソンの軍拡競争モデルとして広く知られている考え方だが、日中両方が仮想敵国の軍備を上回るように自国の軍備を拡大し続けると、軍拡競争が延々と続く可能性がある。そういう意味では、軍備を備える必然性を感じさせない方が、望ましい結果を得られるかも知れない。
中国人民解放軍がやる気に充ちているので、日本側の気持ちを理解してもらえるかは自信はないが。
0 コメント:
コメントを投稿