2013年2月7日木曜日

クルッグマンは金融政策に効果が無いとは言っていない

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ノーベル賞経済学者のクルッグマンが日本経済について短いコラムを出している(NYTimes)。そしていつもの事*1なのだが、経済評論家の池田信夫氏が誤読している(BLOGOS)ので、問題を指摘したい。

クルッグマンのコラムは要約すると次のような内容だ。日本経済の生産年齢人口あたりの経済成長率は年率1.2%と悪くは無いが、ゼロ金利制約にあるので完全雇用GDPに達していない。ゼロ金利制約にはまっているのは、少子高齢化による生産年齢人口の減少で投資需要が少ないから。問題を解決するには期待インフレ率を高めるしかなく、財政・金融政策を行う必要があるが、金融政策が適切ではなかった。

財政・金融政策の部分は拙訳をつけよう。

But Japanese policy has never sought to achieve this. Deficit spending has put part, but only part, of the excess desired private saving to work; this has mitigated the slump, but not produced a booming economy, except perhaps briefly circa 2007. And the Bank of Japan has always pulled back on monetary policy when the economy looks better, instead of doing what it should, which is to keep the pedal to the metal until the inflation rate is solidly into positive territory.(拙訳:しかし、日本の政策はインフレ期待の上昇を達成するようには決して見えなかった。赤字財政支出は超過民間貯蓄を動員するための一部にはなったが、だが一部でしかない。不況を和らげたが、恐らく2007年あたりの短い期間を除けば、活気ある経済を作り出す事は無かった。そして、インフレ率がしっかりと正の領域になるまでペダルを全力で踏み続ける代わりに、経済が良くなったように見えたら日本銀行は常に金融政策を引き締めた)

ゼロ金利制約下では、将来のインフレを容認するように宣言して実行すべきと言うのが、1998年からのクルッグマンの金融政策(It's ba+k!論文)で、日銀はそれをやってこなかったと言う事だ。だから、「金融政策の効果には否定的」と言うのは、ミス・リーディングになる。

また池田信夫氏はクルッグマンの事を「原始ケインズ主義」と言っているが、最近の研究がそれをサポートしないわけでもない。Correia, Farhi, Nicolini and Teles(2011)はゼロ金利制約下では財政政策が有効だと言っているし、Eggertsson and Woodford(2003)を始めとして金融政策のコミットメント効果(テイラー・ルールの変更)が効果を持つと言う議論もある。さらに、Chen, Cúrdia and Ferrero(2012)DSGEを駆使した分析で、米国でのQEの効果について僅かながら観察できるとしている。

3 コメント:

POM_DE_POM さんのコメント...

エントリーを見る限り、議論の核心はGDPギャップはあるのか?元の成長経路に戻れるのか?だと思うのですが。
池田氏はNO、クルーグマンはYES。


>「金融政策の効果には否定的」と言うのは、ミス・リーディングになる。
これは同意。
Woodford同様、前置き部分(ゼロ金利政策や流動性の罠)だけ見て結論部分(インフレ予想への働きかけ)を無視しているように見えます。


もう1つ気になるのはクルーグマンが改めて「生産年齢人口の減少」に言及しているのを見て、浜田氏(や支持者)が何て言うんだろうか?って事ですが。
たぶん、これはこれで無視される気がしますw;

uncorrelated さんのコメント...

>>POM_DE_POM さん
> エントリーを見る限り、議論の核心はGDPギャップはあるのか?元の成長経路に戻れるのか?だと思うのですが。

リンク先のクルッグマンのコラムには、そういう事は書いてありませんでした。
そういう事をクルッグマンが言っていた気もするのですが。

> 浜田氏(や支持者)が何て言うんだろうか?って事ですが。
> たぶん、これはこれで無視される気がしますw;

流動性の罠とデフレは違うと主張すればいいのかも知れません。

POM_DE_POM さんのコメント...

>リンク先のクルッグマンのコラムには、そういう事は書いてありませんでした。
”池田氏の”エントリーでした。分かりにくくて申し訳ないです。

>流動性の罠とデフレは違うと主張すればいいのかも知れません。
そうですね。こちらの記事の反論としては、それで良いかも知れません。それに対する反論も、見てみたいですが。
http://www.anlyznews.com/2013/01/blog-post_4473.html


ついでに。
以前に↑記事に「浜田氏は流動性の罠を無視してるんじゃないか」と書きましたが、インタビュー見たらちゃんと言及していましたね。前言撤回であります。

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