2025年5月1日木曜日

海の向こうのDEI政策は、MAGA以外からは、そんなに嫌われていない

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今年1月からの第二期トランプ政権が反DEI政策を打ち出している*1こともあり、アメリカではDEI政策への強い反発があって、それが2024年米大統領選挙で民主党が敗北につながったと信じている人々が、日本のSNSには一定数いる。だが、DEI推進と言う大枠が広く嫌われているかと言うと、そうでもないようだ。

1. 浮動票はDEI政策に関心が薄い

トランプ大統領の熱心の支持者たち(MAGA)は嫌っている。彼らは白人至上主義的な面を隠さない。"Make America Blonde Again"と書いたTシャツを、ホワイトハウスの報道官が着ていた。しかし、MAGAの人々は2020年の選挙でもトランプ大統領を支持しており、2024年の選挙結果を左右した層ではない。MAGA以外のアメリカ市民の考えが重要だ。

2020年と2024年で民主党から共和党に支持が切り替わったスイングステートの世論調査*2を見ても、インフレーションと移民問題が有権者の最大の関心時だった。ハリス候補や民主党がリベラル過ぎることを理由にあげた人はほとんどいない。民主党候補者から共和党候補者に投票先を切り替えた有権者は、上述の2つに加えて、ハリス候補が中間層よりもトランスジェンダーなどの文化的問題を優先していると強く考えているが、これはDEI政策ではない。米連邦政府によるDEIプログラムへの資金提供削減・廃止も、38%しか支持していない*3。維持・拡大は44%だった。

2. トランプ政権に面従腹背な企業

トランプ政権の反DEI政策に呼応して有名企業はDEI政策を後退をさせているように見える*4が、完全に放棄したところはどうも稀だ。放棄したように見えても、"DEI initiatives"を"inclusive culture", "belonging", "culture-building"に言い換えて存続させている。企業でのDEIと言うと男女別や人種別採用枠と言う発想になる人が多いようだが、採用・昇進・昇給などの人事において、人種や性別や障害などで差別しないように取り組むように、社内研修などを整備することが第一歩となる。多種多様な人種を抱えている企業が、DEI政策を放棄するのは困難と言うのは想像に難しくない。

3. MAGA節が多数派になっていない理由

DEI政策への理解が、恐らくある。アメリカは競争社会であるので、DEI政策で恩恵を受けている集団がのほほんとしているわけではない。DEI政策で利益を得ている最大の集団は女性だが、アメリカのキャリア女性は学歴に箔をつけるのも熱心だし、産後2週間で職場に復帰する。日本の女性労働者ほど優遇されているわけではない。障害者雇用なども元軍人の戦傷者が含まれているので、人々の理解を得やすい。人事部の関与が低い採用形態から、構造的に人種差別が入り込みやすい面もある。

DEIの弊害も大きくはないと思われている可能性がある。2023年6月に米最高裁が人種別の加点を違憲と判断したため、2024年の入試から学力の高いアジア系の比率が高まるのかと予想されていたのだが、親が卒業生だと有利になるレガシー入試制度の影響などが強く出たため、そうはならなかった*5。課外活動が重視されるため、子供に課外活動をさせられる金持ちが有利など、アメリカの入試制度は純粋な学力勝負ではなく、アファーマティブ・アクションの相対的な害は日本人が思うほど大きくないようだ。

4. まとめ

DEI政策すべてが良いわけではないというか、傍から見ていて止めたほうが良いのではないかと言うものもある。協力会社をDEI推進度で選ぶような施策は煩雑だし、差し出がましい。DEI自体ではなく、DEIに関連したポリコレではあるが、女性はプログラマーに向かない説を唱えただけで解雇*6と言うのは、窮屈すぎる。しかし、アメリカ市民の過半数は、DEI政策は全体としては必要で、その弊害は必要悪と看做しているようだ。

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