アメリカの著名心理学者スティーブン・ピンカーが、事実を不正確に述べることで人種差別問題を矮小化したツイートを頻繁に行っており、アメリカ言語学会(LSA)のフェローなどにふさわしくないので除名しろと言う要望書が代人数の署名をつけてLSAに出され*1、要望書はピンカーのツイートを曲解していると言う反論*2や、このようなキャンセル・カルチャーは自由な言論活動を萎縮させることになる批判*3も出てきて賑やかなことになっている。
ピンカーの統計の読み方は特異だとは言えないし、あれこれ多様な可能性を考察してこそ解決すべき問題を解決できるようになると信じるので、ピンカー擁護者の議論に概ね同意する。フェロー除名要望書はポリコレ棒で、フェロー除名要望書に署名した人々は真の意味での社会厚生の改善には無関心なのではないかと疑ってしまう。しかし、ピンカーの議論自体にも難が無くは無い。
黒人の方が白人よりも警官に射殺されやすいのは、黒人の方が白人よりも通報されやすいからであって、警察が人種差別的であるからとは言えないと言う主張を考えてみよう。かなり説得的ではあるが、統計に騙されている可能性はある。黒人は怪しまれないように、白人よりも振る舞いに気をつけて生活していると言う話があるのだが、黒人は大したことをしていなくても警察に通報されているのかも知れない*4。すると、黒人と白人の通報件数対射殺数が似たような水準であると言うことは、警察が黒人を公平に扱っていることを保証しない。
実際、今回のBLM運動は*5、警察が手錠をかけて制圧済みの黒人男性が手荒く扱われて死亡したことが発端となっており*6、警察が黒人を不適切に扱っているケースがあることは間違いない。警察が黒人と白人を公平に扱っていると言うには、警察が白人被疑者も不適切に扱っている映像資料を見つけてくるなどしないといけない。可能ならば、制圧済みの白人を殺してしまった事例が多数あることが示したいところだ。誤射の類はそこそこあると思うのだが、少なくともピンカーはそこまでの話を提示しているわけでは無いようである。
*1Open Letter to the LSA - Google ドキュメント
*2The Purity Posse pursues Pinker ≪ Why Evolution Is True
*4凶悪犯罪の加害者における黒人の割合から考えると、統計差別で通報にバイアスが入るのは不自然ではない。
*5問題になっているピンカーのツイートの多くは何年も前のものであり、今回のBLM運動に言及したものではない。
*6監視カメラやスマホの普及、ボディ・カメラ(BWCs)の装着などで警察の振る舞いの悪さが可視化される現代を感じさせる事件である(関連記事:警察官がボディ・カメラを装備しても、態度が良くなるとは限らない)。
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